| 2006年03月08日(水) |
本日の目覚ましテレビを見た方だけわかってください |
「だからもっと早く準備しろと言ったんだ」 「だってしょうが無いじゃん、出がけに宅配来るなんて思わなかったんだから!」
駅の改札を出てから半分駆け足のように行ったのに、それでも着いたら映画は既に始まっていた。
「まだ予告編? え? もう本編も始まっちゃってる?」
売り場の人に尋ねた進藤は映画が始まってしまっていると知ってちっと小さく舌を鳴らした。
「もういいよ、仕方ない。次の回で見よう」 「次って、次で見たらあの店でメシ食えなくなっちゃうってば」
くるりと振り返った進藤はそう言うとぼくを軽く睨んだ。
「おまえ行きたいって行ってたから二ヶ月も前に予約したのに」 「だったらそれを無駄にしないために、時間には余裕を持って行動するようにしろ」
冷たく言いはなったら悔しそうに口をつぐみ、それからまた再び切符売り場の方を向く。
「あのー…本編どれくらい過ぎちゃってますか?」
5分くらいでしょうかと言われてぼくを見る。
「仕方無い、映画はまた日を改めて今日はやめよう」 「ヤだ! 5分くらいならいいじゃん。折角来たんだから見ようぜ」 「途中になるのは嫌なんだよ」 「へーきだって5分くらい見なくても」
世の中には映画を途中から見ても気にしないタイプの人もいるようだが、ぼくは絶対に嫌だった。
最初の数分に大切なメッセージや布石がある場合もあり、それを見逃すということは映画の制作者の意図をないがしろにするような印象があったからだ。
でも進藤は違う。そんなの脳内で補完すりゃいいだろと、あくまでも見るつもりでいるので、二、三押し問答した後に諦めた。
「わかった。いいよ……仕方ない」
見ようかと言ったら進藤はぱっと嬉しそうな顔になった。
「よっしゃ! じゃあおねーさん。大人二枚ね」
にこにこと金を払い、示された館に歩いて行く。
「早く行こうぜ」
ぼくの手を引いて、ボールを投げられた犬よろしく半分小走りになって柔らかなカーペットの上を歩いて行く。
まったくこの悪いくせはいつか正してやらなくちゃと考えながら、その実正すつもりが自分にないこともよくわかっていた。
おまえは進藤を甘やかしすぎていると、いつだったか和谷くんに言われたことがあるけれど、実際そうなのかもしれない。
ぼくはどんなに不満に思っても、彼のしたいようにしてやりたいと結局最後には思ってしまうから。
一応話題作だったその映画を見終わって外に出てから聞いてみる。
「おもしろかった?」 「んー……よくわかんなかったかな」
案の定、最初の最初に何か仕掛けがあったらしく、それを見ていないぼくは始終もどかしいような、歯がゆいような気持ちを味わいながら映画を見ることになった。
「だから言ったじゃないか、最初から見ないとわからなくなることもあるって」
見ているうちにぼんやりと、こういうことがあったのかな?ということはわかってきたけれど、それでも映画館内でぼくたちだけがそのもどかしさを味わったのかと思うと少し腹立たしい。
「これに懲りたらこの次からは―――」
心を入れ替えるようにと言いかけたぼくの言葉を進藤が遮った。
「いいんだよ」 「え?」 「どうせ映画なんてろくに見てないんだから」
思いがけない言葉にえっと思って顔を見る。
「おまえと二人で見るって、そのことが重要だから」
おれ、いつもおまえの顔ばっかり見ていて内容なんかそんなに覚えていないんだと、言われてかーっと顔が熱くなった。
「ば――」
勿体無い。結構なお金を払って見ていたのがぼくの顔だなんて、そんなものいつも見ているじゃないかと、怒濤のように言いかけて口を噤んだ。
「そうだね、最近は忙しくてなかなかこんなふうには会えないし」 「だろ?」
にこっと笑われて顔が火照るくらい赤くなっているのがわかった。
「映画は何を観るかじゃなく」
誰と見るかが大切なんだよと、わかったように言う進藤にやはり何か一言言ってやりたくなったけれど、ぼくは黙って彼の手を握り、予約した店に向かってゆっくりと歩き出したのだった。
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今朝のめざましテレビ、映画が始まっていても観る派、観ない派というのをやっていたんですよね。途中からは観ないカップルとそれでも観たカップルと両方にインタビューして。(二人で観られたから良かったというのは始まってから観たカップルの女性の言葉です)
私は5分くらいなら観てしまうタイプですが、アキラは最初から観たい人だろうなあと思います。 ヒカルはせっかちだし、次の回まで待つのが嫌なタイプだと思うので十五分くらい始まっていても観てしまうかもと、想像ですが。
で、この二人がインタビューを受けたとしたらヒカルはきっと「どうせ映画なんか観てないし」と言うだろうと思ってこんな話を書いてみました。一気書き。朝から何やってんだ(苦笑)
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