SS‐DIARY

2005年04月01日(金) (SS)エイプリル・フール


いつもはそんなことすら忘れているのに、今年はふとそうだったなと思い出した。

この年でと思わないでもないけれど、せっかく思い出したのだから一つ嘘をついてみようと四月一日のカレンダーを眺めながら思ったのだった。





「塔矢」

その日、たまたまおれと塔矢は会う約束をしていて、だから待ち合わせ場所で落合った最初に言ってみた。

「あのさ、おれたちもう今日で別れようぜ」

驚くかな、怒るかな、笑うかなと、思ったら塔矢はいきなり泣いたのだった。

泣いた…というか、泣いていることを自分で全く自覚していないのに涙だけが流れてしまったという感じで、呆然とした表情のその頬の上を透明な水滴が滑って行ったのだった。


「キミが…そう望むなら」

思ってもいなかった反応に言葉も無く立ちつくしていたら、しばらくたってかすれたような声で塔矢が言った。


「望むなら…ぼくは…」
「違うっ、ごめんっ!」

思わず叫んで抱き寄せてしまった。


こんな。

まさかこんな反応を塔矢がするなんて思いもしなかった。


あまりのショックに泣いているのさえ気がつかない程、そんなに深く傷ついてしまうとは思わなかったのだ。


「ごめん、今の嘘なんだ」

今日はエイプリル・フールだったろ?だから嘘ついたんだよと、言ったら塔矢はしばらく黙り、それからもがくようにおれの腕から逃れると、思い切りおれの頬を殴ったのだった。


「いくらなんでも、言っていい嘘と悪い嘘があるだろうっ!」

ぱあんと派手な音に周囲が振り向く程の、でもその痛みは塔矢が傷ついた心の痛みなのだと思った。


「ごめん。もう冗談でも言わないから」
「当たり前だっ」

もし言ったら本当に別れるぞと、まだ泣いたまま、塔矢はおれを睨みつけたのだった。


「うん、ごめん…ごめんなさい」


ぎゅうっと抱きしめる腕の中で、塔矢はずっと泣いていた。普段、滅多なことで泣いたりなんかしない塔矢が泣く。


それほど強く想われていたのだと知って、おれはバカな自分を呪いながら、切なさに泣いてしまいそうになったのだった。



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