まったくもって正論であるのだけれど、面と向かって言われた時はそれが腹立たしかったりもする。
おれのすること言うことに、大抵の場合、塔矢は余程のことが無ければ口出ししてくることは無くて、でも、言う時にはずばっと前置き無しに言ってくるのでこちらとしては逃げようが無い。
いつだったか言われたのは、まねごとで煙草を吸っていた時。
元々、三谷とかが吸っていて、おれも付き合いでなんとなく吸っていたのだけれど、ある日、二人で歩いていたらふいに塔矢が言ったのだ。
「煙草なんてやめた方がいい」
おれは塔矢の前で吸ったことは一度も無いし、見られるようなへまをした覚えも無い。
匂いが髪や体についていて、それでわかったのだとは思うのだけど、それにしたって碁会所に行けばみんな吸っているのだから、おれが吸ったとは限らないというのに。
でも、塔矢は間違いなく、おれが吸っているものとして言った。
「本当に好きでやめられないならかまわないけど、そうでないならやめた方がいいよ」と。
もし他のヤツに言われたのだったら、大きなお世話と突っぱねた所だけれど、言ったのは塔矢だったからおれはなんとなくもう吸えなくなってしまった。
だってあいつはまっすぐな目でいつもおれを見ているから。
次に言われたのは、スランプって言うのかわからないけれど、打っても打っても勝てなくなってしまい、それでちょっと生活が荒れた時。
久しぶりに会って一局打った後、ぽつりと思い出したように塔矢は言ったのだった。
「最近のキミは、あまり感心しない」
ぼくは今のキミはあまり好きではないよと、一体何様だおまえと、のど元まででかかったけれど、でもやっぱり言えなかった。
そう言った塔矢の声はきっぱりしていたけれど、とても悲しそうだったから。
その次も、そのまた次も、他の誰が言わなくても、他の誰が見逃してもあいつだけは見逃さずにストレートにおれに言ってくるのだった。
「進藤、ぼくはそれはあまり良くないことだと思う」と。
その度におれに出来ることはと言えば、ただ恥じること。 目の前に凛と立つ塔矢に、おれはひたすら恥じ入ることしかできない。
おまえは世間知らずだから。 みんなやっていることだから。
反論はいくらでも言うことは出来たけれど、それがどれもただの言い訳に過ぎないのは誰よりもおれが一番よくわかっていた。
あいつはあいつらしく立っている。
ただそれだけのために、でも戦っているのだということをおれは側にいて知っていたから。
楽に流れることをしない。 安易に汚れることをしない。
綺麗な 綺麗な 汚れの無い生き物。
時に非道く腹が立ち、時に汚してみたくもなるけれど。
でもおまえがいるから、きっとおれは腐らずに生きていけるのだとそう思う。
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常々よく思うことでもあります。
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