SS‐DIARY

2004年09月08日(水) (SS)今日も彼はトリビアを見ていたようで

指導碁を終えて帰宅すると、ドアを開けるか開けないかのうちに進藤がかけよってきた。

「なあなあ、おまえパスポート持ってるよな」

がぶり寄るように迫られて少々驚きながら答える。

「え?まあ…持っているけど」

それはもちろん海外棋戦もあるのだから、何年も前に作って持っている。

「旅行行こう!旅行!おれ海外旅行行きたい」

何をいきなりと思いつつ、リビングのテレビがつけっぱなしなのを見て、また海外ロケの番組でも見たのだなと思った。
根が単純な進藤はスペシャル番組などを見るとすぐに影響されてしまうのだ。
今日もまた旅番組でも見て、それで自分も旅行に行きたくなったに違い無い。

「いきなり海外って言われたって…じゃあ中国とか?」
「なんで! おまえの親父に会いに行けってのかよ」

いや、まあ、それはそれでいいんだけどさと進藤はぶつぶつと言っている。

「もっとこう、ドキドキわくわくするような所に行きたいんだってば」
「じゃあ…韓国?」
「永夏の本拠地じゃんかよ!」

ある意味ドキドキもわくわくもするのではないかと思うのに、進藤の顔は思い切り渋い。

「そりゃ秀英には会いたいけどさー」と、どうも様子を見るからに他に具体的に行きたい所があるようなのだ。

「じゃあ…キミはどこに行きたいんだ?」

とんでもない国で無ければ考えてあげてもいいよと言うと、進藤は、ぱーっと電球がついたみたいな明るい顔になった。

「おれ、おれ、ハンガリーに行きたい」
「ハンガリー?」

彼のボキャブラリーの中にはとうてい入っていなさそうな国名に思わず首をひねる。

「ハンガリーって、何か遺跡とか?」
「ううん、おれ温泉行きてーの」
「温泉?」


うんと、大きくかぶりをふって頷くと、進藤はキラキラと目を輝かせながらこう続けた。

「だってさ、だってさ、ハンガリーの温泉ではみんな裸エプロンなんだぜ!」

「それは女性の話だろうが!」


たまたまぼくもそのテレビは指導碁先でお茶をいただきながら見ていたのだ。


「えーっ、でも絶対におまえも―」


似合うってと続けるのを鞄でめった打ちにして黙らせると、ぼくは一人で和室に向かい、どっと疲れたような気持ちになりながら着替えを始めたのだった。


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見られなかったトリビア(涙)
裸エプロンのアキラ。
ヒカルじゃなくても見たいぞ。


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