SS‐DIARY

2004年06月19日(土) (SS)夏の月

夜、寝苦しくて目を覚ましたら目の前にあいつの白い背中があった。

いつもなら、ちゃんとシャワーを浴びて着替えるのが常なのに、そうするのを忘れるほど激しかった名残が肌の表に赤く散っている。

数時間前、取り憑かれたように舌を這わせ、印を残したなめらかな背中は、流れるほどの汗を浮かべていたというのに、今は静かに冷えている。


(きれいだな)


目を覚まして最初にこんなきれいなものを見ることができるのは、なんて幸せなんだろうかと、そう思いながらしばらく眺める。


そのうちなんとなくまた触れたくなって、指でそっと背骨のくぼみをなぜて見る。

ぴくりと震える肌が愛しくて、思わず今度は唇を押し当てる。

眺めるだけ。そう思ったのに、一旦触れてしまうと押さえが聞かなくなるものなんだなと、変なことに感心しながら、むさぼるように背中一面に舌を這わせる。

さすがにあいつも気が付いて、身をよじるようにして「なに?」と聞いてきた。

とろりとした眠そうな声に、起こしてしまってかわいそうだったかなと思う。

「あのさあ…これおれの?」
「え?」
「これ、全部おれのかな?」

きゅと、赤い印をキツく吸いながら言うと、あいつは喉の奥で笑ったようだった。

「全部キミのものだよ。骨も皮も肉も」

中に入っている心まで全てキミのものだからと、言われて痺れるほどに幸せになった。

「ありがと」

他になんとも言えなくて、でも胸一杯でそう返す。



愛してる。


この白い背中を。

なめらかな肌を。

眠くてたまらないだろうに、おれを愛していると示してくれる

おまえのことがたまらなく好き。



そっと腕をまわし抱きしめると、甘えん坊だなあと今度ははっきりと声を出して笑った。


「でも、そんな所も好きだよ」と優しい声で言う。


愛しさで死ぬ。


いつかおれが死ぬことがあれば、それはこいつを愛し過ぎて死ぬんだと。

冷えた背中に頬をすり寄せながら、まるで確信のように、そう―思った。


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懐かしい曲シリーズ。

ANRIの「夏の月」これ、別れの曲ですが(^^;すごく綺麗な曲なんですよ。

「優しさも 我が儘も 弱さも 全部わかって 私はあなたを愛し 何一つ怖くない」

そんな自分怖くてと続くわけなのですが(汗)

夜の闇の中にぼんやりと見える、アキラの白い背中はお月様みたいにヒカルには見えるんだろうなあと、そんなことを考えながら書きました。

あ、タイトル通り、夏の夜のエピソードです。冷房をつけていて、でもそれがタイマーで切れてしまって目が覚めた感じかなあ。
で、普段ならどんなに疲れていてもきっちり着替えるアキラが、そのまま腰から下だけ布団をかけて眠っていると、そんな感じだと思ってください。





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