SS‐DIARY

2003年10月14日(火) G43A‐1(これならいいじゃろう)

【無人島に行くなら】


「無人島に行くなら何を持っていく?」

雑誌を見ていた進藤がふとぼくに尋ねた。
昔からよくあるその手の質問に対するぼくの答えはいつも一つで。

「ポータブル碁盤」

そう言うと、進藤は「えー?進藤ヒカルくんて言えよ」と口を尖らせて言った。

「言ったって言わなくたって、キミは着いてくるじゃないか」と言うと、進藤は一瞬黙り、それから「うん、そうだな。おれきっとおまえが嫌だって言っても着いて行くと思う」と笑った。

それはぼくたちの間の不思議な確信で、例えば逆にもし進藤が行けば、ぼくは追っていくのだろうと思う。
それが地の果ての、それこそ無人島だとしても。

「無人島に行ったら、まず家を作んなくちゃだよな」
「それから水を確保して。南の方ならスコールが来るから大丈夫かもしれないけど、井戸も掘った方がいいかもね」

「それで取りあえず、猛獣はいないということにして、でも動物なんてそうそう捕れるもんじゃないから、イモぐらい植えた方がいいよな」
「病気になった時に困るから、薬草の類も持って行った方がいいかも」

まるで子どもが遠足にでも行くかのように、ぼくと進藤は想像の無人島の話をし続けた。

「ゴム長だろう? 軍手だろう? ナイフの類はもちろんとして、出来れば寝袋も欲しいな」
「進藤…キャンプに行くわけじゃないんだから」
「でも最初からいきなり地べただと体痛いじゃん?」
「そうだね。急に環境が変わるとストレスで体調がおかしくなるって言うし」
「いや、そうじゃなくて、するのにさぁ」

ごすっと殴って黙らせて、でもまた話を続ける。
行くわけでも無い、ありもしない無人島の話をどれだけしただろうか、ふと気がついたように進藤が笑った。

「なに?」
「ん? おれら、暮らすことばっかりで、帰ること全然考えてねぇなあと思って」
言われてみれば確かに、不便な無人島でいかに生活していくかという計画をたてはするものの、どうやって帰るかとかという話はカケラも出ない。

「なんで? 塔矢」
じっと見つめられて少し赤くなる。

「じゃあキミこそなんでなんだ」
「えー、だってさあ…」

見つめ合い、笑って、それから秘め事のようにキスをした。

「だって」
「だってさ」

せっかく二人きりになったのに、どうしてそこから出ようなんて考えるだろうか?

与えられた永遠。

そこで朽ちるまで生きられたら、それ以上の幸せは無いと、期せずしてぼくたちは同時に言い、それからまた笑ったのだった。


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