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エーサン小咄
2005年10月14日(金)

「ごめん、サンジ、ごめんて。そんな怒るなよ〜」
いつだって反省だけは一人前の男が、本日30回目くらいの謝罪の言葉を口にする。
本気で反省してるのかどうなのか、口調は弱りきっているものの、元来の性格そのままの、その軽〜い口調がなんだかムカついて、テーブルの向かいに座る男に横顔を向けたまま、無言でグラスを傾ける。

昼間のうちにめぼしをつけておいたこの店は、サンジの予想通り酒も料理もなかなかのものだった。
客層はあまりガラがいいとは言えないが、店の持つ明るい活気にあふれた雰囲気のせいか、見た限りではトラブルが起きる様子もなく、皆陽気に飲んで食っている。
目の前にうまい酒と料理があるのに、こんな風につまらない顔で食事をするのはサンジのポリシーに激しく反しているのだが。
今回ばっかりは、そうそう怒りを納めるわけにはいかなかった。
だって非は全部エースにある。100%エースが悪い。
…いや、98%くらいかもしれないけれど、それでもこいつが圧倒的に悪い。

「サンジィー…」
眉間の皺はそのままに、チラリと奴に冷たい一瞥をくれてやれば、へにゃんと眉尻を下げた情けない顔。
その顔に弱いサンジは、思わずチクリと胸の奥が痛んだけど、それでも今回はかりは許さないと、心を鬼にして再びつん、と明後日の方を向く。

しばらくして、フウ、と小さく息を吐く音がした。

あ、コノヤロため息吐きやがった。ため息吐きたいのはこっちだっつーの!などと思っていたら、エースは突然テンガロンを脱いでテーブルの上に置き、何を思ったか、立ち上がってこちら側に回り込んで来る。
「サンジ、ごめんなさい。許してくれるなら、俺、何でもするから」
「んなっ…、ちょっ…!!」
努めてエースの事を見ないようにしていたサンジが、驚きに素っ頓狂な声を上げた。何故って…。
サンジの目の前に立ったエースは、おもむろに床に膝まづくと、恭しくサンジの片手を取って、神妙な顔でそんなセリフを吐いたのだ。まるでレディにでもするように、手の甲に唇を押し当てて、また「ごめんなさい」と呟く。
慌てて辺りを見回せば、好奇に満ちた目がこちらを眺めている。サンジは腰掛けたまま前かがみに彼に顔を寄せて、小声で囁いた。
「ちょ…何やってんだよ!」
いくら名刺みたいな入れ墨は珍しく着込んだシャツで隠してるとはいえ、白ひげ海賊団2番隊隊長ともあろう男が膝まづいて男に許しを請うているなんて。
「自分が誰だと思ってんだよ、あんた」
居たたまれなさに立ち上がろうとするも、エースにがっちりと腕を取られてそれもかなわず、サンジは椅子の上で居心地悪そうに身じろぎする。そんなサンジとは対照的に、エースは堂々としたものだ。人目も男のプライドも、全く気にしている様子は無い。
それどころか、サンジの指に5本の指をしっかり絡めて、切なげな目でジッと見上げて来る。
「そんなの関係ない。サンジの前では俺ただの男だもん」
そう言ってもう一度恭しく手の甲に口づけを落とす男に、サンジは真っ赤な顔で言った。
「わかったよ、わかったから立てよ」
面白くくらいうろたえているサンジに、エースは憂いに満ちた目で聞いてくる。
「じゃあ、許してくれる?」
「許す、許すから立って!頼むから!」
ヤケクソの様な言葉に嬉しそうに笑ったエースが、ようやく立ち上がる。
ホッとしたのもつかの間、エースにぐい、と強く腕を引かれ、今度は強引に立ち上がらされた。バランスを崩したサンジの腹にがっちりとエースの腕が廻されて、何がどーなったんだかわからないまま、気づけば椅子に座るエースの膝の上に収まっていた。
「ぎゃーーー!!…ななな、何しやがる、テメェ!!!」
「まあまあ」
「ちょっとっ…離せよ!」
「ん−…?」
必死になってジタバタ暴れても、ガッチリと腹に廻ったエースの手はびくともしない。頬や首筋に何度もキスを落とされて、サンジは項まで真っ赤になった。
「こっ…この恥知らず!」
「んー?誰の事かなー?」
どこまでもマイペースな恥知らずは、全く緊張感の無い暢気な声で、嬉しげにサンジの首筋に鼻先を埋めてくる。
「………」
未だ真っ赤な顔で、サンジは重い溜め息を吐いた。
こうなったら、抵抗するだけ体力と時間の無駄だ。もう奴の気の済むまでやらせておけと、この男と知り合う前だったら考えられなかった諦めの境地に至り、だらりと身体の力を抜いた。周囲の好奇の視線をひしひしと感じながらも、あえて一切見ない振りをして。
エースの手が伸びて来て、おとなしくなったサンジの顎を取る。
醒めた目で振り返れば、バカみたいに嬉しそうな顔。睫毛も触れそうな距離で、思い切り瞳に力を入れて睨みつけてから、目を閉じた。
すぐに唇に唇が触れてくる。
さっきまで遠巻きな感じでこちらを伺っていた客たちが、すっかり盛り上がってヒューヒューとはやし立てる声がする。
もうなんとでも言え。俺がこいつにどれだけ手を焼かされていると思ってんだ。
サンジは半ばヤケクソで手を伸ばしてエースの髪を掴むと、自分から舌をねじ込んでやった。


さんざん周囲に濃厚なキスを見せつけてから、顔を離して見れば、幸せそうに緩んだ男の顔。
だからあんたは白ひげんとこの幹部で泣く子も黙る賞金首の海賊火拳のエースで………。

サンジは、すっくと立ち上がるとスタスタと店の出入り口に向かう。
「出るぞ。払いはあんたな」
「えー、まだロクに食ってないじゃん!」
不満げに言いながらも、慌てて後を追って来たエースには振り返らずに、サンジは素っ気なく言い放つ。
「じゃあ一人で食ってけば」
「ちょっ、サンジ」
さっさと店を出ると、エースは慌ててレジに適当に札を放り投げて、後を追って来た。エースに背中を向けたまま、サンジは腹立たしげな口調で言った。
「バカじゃないの?あんた、あんな場所で、白ひげの2番隊隊長ともあろう男があんな事…」
「サンジ、怒ってる?」
さっきの強引さが嘘の様なエースの声に、サンジは背中を向けたまま、しばし黙り込む。やがてくるりとエースのを振り返った顔は、見事に無表情。
「…………怒ってま・せ・ん」
そうでも言っておかないと、今度は何をされるかわかったもんじゃない。自分の前ではただの男になりさがるこの海賊には。
再びエースに背を向けると、サンジはとっとと歩き出す。
「サァーンジー!待てってばー!」
困り果てた様にまとわりつきながら後を付いて来るエースに、内心いい気味だ、と笑いながら。

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黒い兄を書いていたら、サンジの事が好きで好きで、グズグズの兄が書きたくなりました。
ほんとにグズグズです。

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