気紛れ銀魂小咄<2>
2004年09月12日(日)
□ 気紛れ銀魂小咄<2> □
「だーかーらー、お前のそれはもうすでに花じゃねーだろ!見てみろ俺様のこの見事な桔梗を!」 「ふざけんな!俺のチューリップの方が愛らしい。てゆーか、お前のそれは桔梗じゃねえ、百合だ!花の名前も知らねーで作ってンのか!」 「二人とも違います。スイトピーです」 土方が万事屋に内職の手伝いに来るようになって今日で3日目。作業は全くといっていい程はかどっていなかった。銀時と土方は手よりもむしろ口を動かす方が忙しい。 「仲がいいあるねー」 「近所でも評判のオモロイ夫婦ですからねィ」 昨日のノリを引き摺っている神楽と沖田が二人の口げんかを肴にのんびりと日本茶をすすっている。 「誰が夫婦だ!!いい加減そのネタやめろ!」 「ちょっとあんたら!ケンカしてる場合じゃないでしょ!」 苦労人の新八が突っ込む。もはやまともに仕事してるのは彼だけであった。 「沖田さんも毎日遊びにきてんなら手伝ってくださいよ!」 「やですよ」 「やめとけ、そこのチャイナ娘と同様、わけの分からん地球外植物が出来上がるのがオチだぞ」 そう、納品期限は明日の夕方に迫っていた。どう考えても間に合いそうにない。 そんな切羽詰った状況の(いや、一部の人間だけ)万事屋に、今日も今日とて招かれざる客が現れた。 「よお、やっぱここだったか、トシ!」 「近藤さん!?」 突然顔を覗かせた近藤に、造花に埋もれた土方が不味い所を見られたという顔をする。しかしそんな事には全く頓着せず、というよりは気付かずに、近藤はニコニコと笑って言った。 「最近万事屋に入り浸りだってェのは本当だったんだな」 「あんたなんでそれを―――総悟!!」 思い当たる人間など一人しか居ない。土方が鬼の形相であたりを見回すが、沖田の姿は影も形も無かった。 「…ったく、逃げ足の速い奴め…」 「まあ、いいじゃねーか、仲良い事はよき事かなってな。しかし、いつの間にんな仲良くなったんだ?」 カッカッカ、と笑う近藤に、土方はがっくりと造花の海に両手を付いた。 「―――俺が誰のためにここまでしてると…」 この男はこうやって天真爛漫に笑っていればいいのだ。汚れ仕事は皆、自分が引き受ける―――そう思っていた。だがしかし、自分にとって天敵とまで思っている相手に、まるで身を売るような思いでここに通っているというのにその言い種はどうだ。 何しに来たんだか、はっはっは、と笑いながら去って行く近藤の後ろ姿を見送る土方の背中には、男の哀愁が漂いまくっていた。 「報われない愛だなー」 「だから愛とかじゃねェ。人を勝手にホモにすんな」 「いっそ告っちゃえば?」 「……てめェ、人の話聞いてんのか?」 チャキリ、と匕首を鳴らして、土方が銀時に凄む。 「土方さんマゾっ気ありますからねえ、いっそこの報われない感が快感なんじゃねェですかい?」 「総悟〜〜〜…テメ、どこバックレてやがった」 サディスティック星から来た王子様に、ついに抜刀した土方が襲い掛る。 そんな二人を眺めながら、だから沖田は土方にまとわりついて離れないのかと、万事屋の皆は妙に納得していた。 「これもまたひとつの愛の形なんですね」 「乱れてんなー、真選組ってーのは」
「あー、ちくしょう、疲れたぜ」 日もとっぷり暮れて、土方はようやく屯所に戻って来た。慣れない作業に凝り固まった肩をコキコキ言わせながら、真直ぐに自室に引き上げる。 「トシ、ちょっといいか?」 近藤の声だ。 着流し姿の近藤がすっとふすまを開けて入ってくる。 「総悟に聞いたんだが…」 「……何を?」 どうせロクな事じゃないだろうと、少々警戒しながら近藤を見返す。しかし、近藤は何かを考えるように口を閉ざしたままだ。 「…近藤さん…?」 訝しげに問いかける土方に、突然近藤が頭を下げた。 「済まなかった!俺はお前の気持ちに全く気付いていなかった」 そんな近藤に、土方はため息を付く。ここ最近の奴の(いや、『奴ら』だ)お気に入りのネタだ。総悟も総悟だが、間に受ける近藤も近藤だ。 「近藤さん、あんた総悟のヨタ話なんぞ間に受けて、簡単に頭なんか下げるんじゃね…」 言いかけた土方の腕を、近藤が強く引いた。逞しい腕に抱き込まれて、土方は困惑して近藤の顔を見上げる。 「…何を…」 「トシ…」 腰を強く抱かれて床に倒された。のしかかってくる身体に、土方は慌てて抵抗する。 「ま、待て、だから総悟のはいつもの奴のタチの悪い冗談で…」 「いいから、もう黙れ」 頬に手を添えられて、ジッと目を覗き込んでくる近藤は、これ以上ないくらい大真面目だ。 「ええーーーーーマジでーーーーー!?」
「う…」 「イイか?トシ」 「…っ」 無骨な手が、なんとか自分を昂めようと、探るように体を這い回る。なんの躊躇いも無く張り詰めた性器に触れられて、快楽に、というよりは、驚きに土方の身体が跳ね上がる。 「トシ、声を出せ」 近藤の声が掠れている。自分相手に興奮しているのだと思うと、喜びよりも困惑の方が先に立つ。 男の手の中で、己の性器が濡れた音をたてる。この男が自分相手にここまでできるのだという驚きと羞恥に目眩がする。 「うっ…うっ…」 自分がこの男に抱いている想いは、恋情などではない。そんな浮薄な想いでは断固としてないのだ。 それでも、自分が生涯をかけても惜しく無いと認めた男にこうして求められる事に、ひどく昂る。この男の前に己の全てを投げ出す事に、暗い、深い満足感を覚えて、土方はそんな自分に困惑していた。 「ぐっ…」 深く穿たれて、その痛みこそが快楽になる。この男に与えられる痛みを受け入れ、歯を食いしばって堪える事に、歪んだ悦びを覚える。 「ああ…」 「トシ…お前、最高だ」 熱い吐息と共に耳元に囁かれた。 力強い律動に、痛みが本当の快楽に摺り替わる頃には、土方は近藤の背に腕を回して、貪欲に与えられる快楽を貪っていた。 「イイ…ぜ、近藤さん、全部あんたのもんだ」 汗にまみれた男らしい顔を見上げて、壮絶な笑みを浮かべると、土方はそれきり考える事を放棄して、ただ快楽に身を任せていった。
「ぶあー、やっぱ朝のイチゴ牛乳は血糖値上がってしゃっきっとすんなー」 今日も今日とて、銀時は毎朝の習慣であるイチゴ牛乳を一気飲みする。もちろん基本姿勢は片手を腰に、だ。 万事屋の朝は割と早い。 グータラを絵に描いたようなこの男、実は意外に早起きなのだ。まるでじーさんである。 「くおらこの白髪頭ーーーーーーーーーー!!!」 「ぶほうぅっ!!」 突然乱入してきた何者かに力一杯体当たりされて、銀時は口に含んでいたイチゴ牛乳を思いきり吹いた。 「何しやがんだテメェ!朝っぱらからフライングボディプレスたぁご機嫌なご挨拶じゃねーか!」 「テメェのせいでおかしな夢見てイイ歳こいて夢精までしちまったじゃねーか!!俺のプライドズタズタにしやがってーーーー!!テメェにこのやり切れなさがわかるかーーーーーーーー!!!」 土方であった。朝っぱらから血管切れんばかりの煮えっぷりである。もしかしたら、高血圧なのかも知れない。 「あぁ!?夢精くらいでガタガタぬかすんじゃねぇ!俺なんざ道っぱたにしょんべん垂れるとアリがたかんだぞ!テメェこそこの切なさがわかりますかこのヤローーー!!!」 「知るかこの糖尿野郎!!糖分摂取過多で死にさらせ!!」 「やだなー土方さん、いくら近藤局長と一つ屋根の下で欲求不満だからって、隊士たちが聞いたらなんて言うか」 「ぎゃーーー!総悟!なんでここに!!!」 突然かけられた間延びした声に、土方はようやく我に還って青ざめた。朝っぱらから大声で自分は一体何を激白しているのか。 いつの間に現れたのか、沖田は喜色満面の笑顔を浮かべている。もうこりゃ言いふらす気満々である。 「やー、朝っぱらから土方さんが血相変えて屯所を飛び出していったもんでね、こりゃきっと面白いもんが見れるんじゃねーかと」 一番知られてはならない相手に一番知られたくない事を知られてしまった土方に、さすがの万事屋のメンバーも同情を隠せない。 「夢精ってなにアルか?」 「…さあ、なんだろね、神楽ちゃん。僕子供だからわかんないや」 新八が乾いた笑いを浮かべてうつろに答える。この調子では内職の造花は納期に確実に間に合わないだろう。 「…総悟…頭下げるから、皆には黙っといてくれ―――」 「さぁて、どうしますかねィ…」 屈辱に堪えながら言う土方と、悪魔のような満面の笑みを浮かべる沖田を眺めながら、銀時は呆れたため息を付く。 「…あーあ、また墓穴掘ってるよ、この人」 懲りない土方であった。
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…長い!
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