エンターテイメント日誌

2006年11月11日(土) 今年大化けしたのはこの娘 <虹の女神>

今まで上野樹里が出演した映画は「ジョゼと虎と魚たち」「チルソクの夏」「スウィングガールズ」「亀は意外と速く泳ぐ」「サマータイムマシン・ブルース」を観ている。筆者にとって樹里とは<演技がそこそこ出来るコメディエンヌ>程度の認識に過ぎなかった。最初に観たのが「ジョゼ」だったというのも痛い。樹里は偽善的で狡賢い女子大生として登場し、その役柄に相当ムカついたので印象が悪くなったのだ。

この娘、もしかしたら女優として天賦の才能があるんじゃないか?と気付き始めたのが「のだめカンタービレ」である。樹里の上手さには毎週舌を巻く。漫画からそのまま飛び出してきたような特異(極端)なキャラクターを、何の違和感もなく自然に演じてしまうことなど、誰にでも真似できる芸当じゃない。わざとらしい竹中直人と比べてみればその差は歴然である。今から考えてみると「ジョゼ」の樹里に腹が立ったのは、それだけ彼女が役になり切っていた証拠なのではなかろうかと最近になって漸く気付いた次第である。

そこで樹里が主演し、岩井俊二がプロデュースした映画「虹の女神」(監督:熊澤尚人)に行ったってわけ。観たら腰を抜かした。今まで5本の映画を観ても樹里に対して全く不感症だった筆者であるが、「虹の女神」の樹里は本当に女神に見えたのである!それだけでもこの映画のスタッフの大勝利であろう。特に樹里が市原隼人に対して「キミ」という呼び方をするのに萌えた。評価はずばりAだ。素晴らしい、文句なし。

気恥ずかしくなるほど青臭い映画である。樹里が大学の映研時代に監督主演したという設定の8mmフィルムが映画の終板で全編流される場面など商業映画でこんなことが許されるのか?と唖然とした。まるでかつての8mm少年がそのまま大きくなって映画を撮ったかのような雰囲気。しかし、考えてみれば青春というものは本来、みっともなくて青臭いものである。だからこそこの作品は本物の青春映画になり得たのだ。

樹里を舐めるように撮るそのスタイルは、かつてヒロスエのことを<女優菩薩>と崇め奉った原将人監督の「20世紀ノスタルジア」(1997)を彷彿とさせた。しかし「20世紀ノスタルジア」の物語はあって無きが如しで、広末涼子主演の長いなが〜いプロモーション・ビデオのような映画だったが、「虹の女神」はきっちりと映画になっているところが違う。見せ方が上手いというか、時制を巧みに前後させた脚本が見事なんだな。これは紛れもなくプロの仕事である。脚本に網野酸(あみのさん)という名前がクレジットされているが、これは聞くところによると岩井俊二のペンネームなのだそうだ。なるほど納得。岩井の最高傑作「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」に肉薄するくらい完成度が高い。少なくとも「LOVE LETTER」は軽く超えたね。

最後に特筆すべきは相田翔子が怪演。いやはや天晴れ。こんな女が身近にいたら本当に恐い。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]