エンターテイメント日誌

2006年08月21日(月) ゆれてきた

映画「ゆれる」を観た。まごうことなき傑作。今年のキネマ旬報ベストワンはこれで決まりだろう。筆者の評価はA。

なにより香川照之が凄い。ある意味怖いくらいの渾身の演技。各映画賞で主演男優賞は彼が総なめ間違いなし。ただし、大手映画会社の作品ではないので日本アカデミー賞(投票者の大半を東宝・松竹・東映の社員が占める)だけは難しいだろうが。

オダギリジョーも相変わらず良い。西川美和監督は1974年生まれで世界的にもまだ数少ない女性監督である。本作を観ながら女の視点を感じたのは、オダギリジョーがあくまでセクシーで格好良く描かれているのに対してヒロインである真木よう子の肌荒れを故意に映したり、わざわざ醜く撮っていること。さすがに同性に対して容赦ないなと可笑しかった。

この物語はオリジナル脚本であるが、事件か事故かをめぐって裁判で争うというプロットは増村保造監督の傑作「妻は告白する」を下敷きにしていることは一目瞭然である。だから映画の前半にオリジナリティはない。しかし後半、兄弟(オダギリと香川)の思惑にずれが生じ、画面が揺れ、ふたりの心理が振幅し始めると俄然緊張感が高まり、面白くなる。丁々発止とやりあう会話。浮かび上がる兄弟そして親子の確執。脚本が見事である。

映画のラストシーン。兄はバスに乗ったのか、乗らなかったのか?その先は観客の想像に委ねられる。鮮やかな幕切れであった。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]