エンターテイメント日誌

2005年12月24日(土) なんて素敵にジャパネスク〜SAYURI

「なんて素敵にジャパネスク」は氷室冴子が書いた少女小説(集英社コバルト文庫刊、1978に富田靖子主演でテレビドラマ化。漫画版は白泉社の少女漫画誌「花とゆめ」に連載)だが、勿論今回のレビューとは些かも関係ない。映画SAYURIのお話である。

SAYURIは日本ではトンデモ映画として認知されている。そりゃそうだろう。舞台は日本なのに、映画の大半はハリウッドのスタジオで撮影された。大体監督のロブ・マーシャルは映画「シカゴ」のキャンペーンで来日予定だったのに、当時香港などで猛威を振るっていた重症急性呼吸器症候群(SARS)を怖れてキャンセルするような人である。つまり香港と日本の位置関係さえ分かっていないのだ。そんな監督が何処まで日本文化を理解しているかは推して知るべしである。

主要キャストにチャン・ツィイー、コン・リー、ミッシェル・ヨーなど中国・香港を代表する豪華女優陣がキャスティングされたことも各方面から痛烈な批判を浴びた。中国でも憎むべき日本人を演じるなんてけしからんとチャン・ツィイーが槍玉に挙げられている。

筆者の評価はB。なかなかどうしておもしろかった。なんと言ってもスリリングなのはコン・リーとチャン・ツィイーの対決である。コン・リーはチャン・イーモウ監督の「紅いコーリャン」で映画デビューを飾った。その後イーモウ監督の寵愛され「菊豆」「紅夢」「秋菊の物語」「活きる」「上海ルージュ」と立て続けに出演。一時期ふたりは恋愛関係にあると噂された。別れる時には相当揉めたそうである。泥沼の不倫劇を精算した(筆者推定)チャン・イーモウはコン・リーとの共同作業も打ち切り、「初恋のきた道」のヒロインに当時学生だったチャン・ツィイーを大抜擢する。その後「HERO/英雄」「LOVERS/十面理伏」と両者の蜜月は続く。つまりSAYURIはチャン・イーモウ監督作品の新旧ヒロインが火花を散らして対峙するという構造になっており、その虚実をない交ぜにした展開がスリリングなのだ。実に憎いキャスティングと言えるだろう。ちなみにコン・リーとチャン・ツィイーはどちらもウォン・カーワイの「2046」に出演しているが、映画の中で顔を合わすことはなかった。今回が実質上初共演である。コン・リーの相も変わらぬ美しさ、そして内面から溢れ出る激情の表現が実に見事であった。

中国人が日本人を演じることを批判するのは甚だナンセンスである。美は全てを超越するのだ。では批判者にお尋ねしよう。日本人の中で彼女たちに匹敵する美貌と演技力を兼ね備えた女優が果たして現在存在するだろうか?原節子や山口淑子、京マチ子、高峰秀子、香川京子、岡田茉莉子、若尾文子といった麗しい大女優たちが活躍した日本映画の黄金期は風と共に去ったのである。SAYURIに憤りの矛先を向けず、日本映画界の人材不足を嘆きたまえ。

SAYURIの美術装置、衣装などは豪華だし、ジョン・ウイリアムズの音楽も格調高く美しい。当然日本人の感覚からいえば疑問符の描写は多々あるが、筆者には余り気にならなかった。大体この映画を日本の京都を舞台にした物語だと信じて観るから違和感があるのだ。それは明らかな誤解である。この作品は欧米人が夢に描くジパングという国の”都(ミヤコ)”という都市を舞台としたファンタジーである。「大阪」なんて台詞が劇中にあるが気にするな。現実の空間に当てはめてみる必要は全くないのである。この世には存在しない異次元空間、パラレルワールドで展開する物語だと想えば腹も立つまい。

えっ? SAYURIを馬鹿にしてるのかって?いえいえ、トンデモない。大いに褒めているのですよ。ハリウッドの大作でこれだけ主役・準主役級の役全てがアジアの俳優で固められた作品は前例がない。世界にアジアン・パワーを示す良い機会である。是非多くの人々に観て欲しいと想うのである。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]