エンターテイメント日誌

2005年07月03日(日) スピルバーグが<宇宙戦争>で一番したかったこと。

デビュー作「続・激突!/カージャック」から最新の「宇宙戦争」までスピルバーグが監督した映画22本と1/4を筆者は全作品観ている。「未知との遭遇」以降は全て映画館で。ちなみに1/4とはオムニバス映画「トワイライト・ゾーン」の4話中1話をスピルバーグが監督していることを指す。だからスピルバーグ映画とは何かについては良く理解しているつもりだ。

「宇宙戦争」の評価はC+。スピルバーグ映画の系譜の中では、ワースト3の「オールウェイズ」「フック」「ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク」や、あの退屈な「アミスタッド」「A.I.」よりはマシという程度の出来。近年の作品では「マイノリティ・レポート」や「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」「ターミナル」などのほうがずっと面白い。

スピルバーグという人は本来、性善説を信条とする映画監督だと想う。「E.T.」「未知との遭遇」などに登場する心優しい宇宙人を描くことには長けている。しかし、悪を描くことは得意ではない。インディー・ジョーンズ・シリーズの悪役には魅力がないし、あの「シンドラーのリスト」でさえ、真の悪は描き切れていないように感じられる。むしろあの作品で描かれるナチスは人間の弱さを露呈している。だから「宇宙戦争」で描かれる凶暴な宇宙人に迫力が欠けるのである。

確かに「宇宙戦争」の特撮は一見の価値がある。アクション・シーンにおけるスピルバーグの演出も実に冴えている。主人公が逃げ惑う場面は「激突!」や「ジョーズ」「ジュラシック・パーク」などを思い起こさせる。

しかし如何せん、脚本が駄目すぎる。これだけ大予算のSFパニック映画なのに、それが最終的に家族の絆の物語に収束される味気なさ。小さくまとまり過ぎていて物足りない。こういうプロットの映画なら主人公を宇宙人と対決する科学者か軍人にするのが常道であろう。大体トム・クルーズは労働者階級に全然見えないし。

(以下ネタバレあり。要注意。)


地球上のウィルスで宇宙人があっけなく自滅するというオチも実に下らない。ナイト・シャラマンの「サイン」の悪夢を想い出した。地球人だって月面着陸したときは細心の注意を払って感染予防をした。あれだけ高度の文明を持ち、人間の有史以前から計画してきたことだろ?油断しすぎ。21世紀の映画なんだからこんなところで原作に忠実である必要はない筈だ。

結局このシナリオがスカスカの映画でスピルバーグが一番したかったことは映画史上希にみる天才子役ダコタ・ファニングが成熟した<女>になる前に組んで、彼女に思いっ切り絶叫させたかった、そのことに尽きるだろう。ダコタちゃんは全編、キャーキャー叫びまくる。もうここまでくればむしろ清々しいくらいである。彼女を観ていて「E.T.」のドリュー・バリモアを想い出すのは決して偶然ではない。エリオット少年の妹、ガーティがE.T.と初めて遭遇したときのあの叫びをスピルバーグは再現したかったのだ。それももっと大規模な形で。

スピルバーグは大人の女を描けない、あるいは全く興味関心がない映画監督である。貴方はスピルバーグ映画に登場した中で、印象的だった二十歳以上の女優を挙げることが出来ますか?皆無でしょう。だからダコタ・ファニングはドリュー・バリモア以来実に23年ぶりに現れたスピルバーグ映画における魅力的ヒロインになり得たのである。

今回エンド・クレジットでダコタ・ファニングの名前はなんと2番目、トム・クルーズの次に登場する。彼女の存在感はオスカー俳優ティム・ロビンスや「ロード・オブ・ザ・リング」の'エオウィン'ことミランダ・オットーはおろか本来主役であるべきトム・クルーズをも完全に圧倒している。もはや可愛い、可愛くないのレベルを超えて老成した大女優の風格さえもある。この映画の撮影当時11歳。末恐ろしい娘である。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]