エンターテイメント日誌

2004年12月25日(土) スピルバーグの軌跡と<ターミナル>

スティーブン・スピルバーグの現在までのフィルモグラフィを顧みると、大きく分けて三つの時期に分けることが出来るだろう。

まず第一がテレビ映画「激突!」の演出力を認められ、劇場第一作の「続激突!カージャック(The Sugarland Express)」を経て「ジョーズ」「未知との遭遇」など大ヒット作を連発した<新進気鋭ディレクター>時代。これはルーカスの「スターウォーズ」と時期を同じくして相乗効果でハリウッド・ルネサンスの潮流を巻き起こした。

そして第一期の頂点となった作品が「E.T.」であり、これでスピルバーグはアカデミー作品賞・監督賞にノミネートされたのだが、結局受賞出来なかった。テーマだけ立派で愚鈍な映画「ガンジー」に破れたのである。このことは彼にとって大きな心の傷として残ったのであろう。自分の好きなファンタジーとか冒険活劇ばっかり撮っていたのでは正当に評価されないことを思い知らされたのである。ここからスピルバーグは変貌していく。

第二期は兎に角オスカーを受賞するために賞狙いの作品を撮りまくった<巨匠への道>時代である。黒人問題を正面から取り上げた「カラーパープル」は彼の儲け主義に対する反発でアカデミー賞は一部門たりとも獲れなかった。同系統の作品として「アミスタッド」もあるが、これも余り評価されていない(無論筆者も観たが、実に退屈だった)。そこでユダヤ人としてのアイデンティティーを武器にホロコースト問題に取り組み「シンドラーのリスト」によって念願の作品賞と監督賞を手に入れる。それでも飽き足らないスピルバーグは何かに取り憑かれたように「プライベート・ライアン」に取り組み、ノルマンディ上陸作戦を徹底したリアリズムで演出して二度目の監督賞を受賞する。

これで押しも押されぬハリウッドでの地位と名誉を得た訳だが、筆者はこの時期のスピルバーグの映画は全く面白いと想わない。「シンドラーのリスト」に続けて娯楽作「ジュラシック・パーク」を撮るなどしてバランスを取っているのだが、そっちの方の演出も以前と比較して面白みというか冴えがないんだよなぁ。本来得意であるはずのファンタジー「フック」なんか救いようのない駄作だし。あ、最悪の出来なのは「オールウェイズ」だけどね。

最早貰うべきものは全て手にした彼は第三期に突入する。そこで生まれたのが「マイノリティ・リポート」であり、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」そして最新作「ターミナル」へと続くのである。なんだか最近の作品は肩の力が抜けて気のあった仲間と愉しく、撮りたい映画だけを撮るという姿勢が明確になってきた気がする。<悠々自適>時代と呼んでも差し支えないだろう。筆者は第三期の軽やかで小粋なスピルバーグ映画が大好きである。

「ターミナル」の評価はB+。なんてったって巨大な空港のセットが凄い。全体の9割以上がセット撮影なのだが、これだけロケが皆無に等しいスピルバーグ作品も前例がない。そういう映画を一度撮ってみたかったのだろう。ヒッチコックを敬愛する彼は「裏窓」や「ダイヤルMを廻せ!」「ロープ」みたいな作品を意識したんだと想う。セット撮影だからカメラが縦横無尽に動き、表現力豊かな映像を愉しませてくれる。「シンドラーのリスト」以降、全てのスピルバーグ作品で組んでいる撮影監督のヤヌス・カミンスキーは特に逆光撮影で冴えまくっている。実に美しい!

大人の女を全く魅力的に描けないのが全スピルバーグ映画の特徴だが(子役の演出は上手い)、今回のヒロインを演じる、キャサリン・ゼタ=ジョーンズはその中でも上出来な方ではなかろうか?何考えてるんだか理解に苦しむ、意味不明な行動をするヒロインではあるのだが...

次回作「宇宙戦争」ではスピルバーグは再びトム・クルーズと組む。ティム・ロビンスも出るよ。予告編はこちら

憑き物が落ちて娯楽に徹するスピルバーグ。これからも実に愉しみである。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]