エンターテイメント日誌

2004年11月22日(月) 老人力。 <ハウルの動く城>

「ハウルの動く城」の評価はA-である。まずそのマイナス点について述べよう。

「ハウルの動く城」では戦火の恋が描かれる。宮崎アニメで戦争を背景としていたり、軍隊が登場する作品は珍しくない。「未来少年コナン」「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「紅の豚」「ジブリ実験劇場 On Your Mark」等がそうである。しかし、従来の作品では誰と誰が何を目的に戦っているのかが明確に表現されていた。それが「ハウルの動く城」ではさっぱり判らない。映画の結末で戦争が終結に向かうことが暗示されるが、それも何で問題が解決されたのか全く理解に苦しむ。王室つき魔法使い・サリマン先生が何をやりたかったのか、その行動原理も不明である。結局、宮崎翁にとってはそんなことはどうでも良くなったのだろう。だから原因と結果の因果関係が無視され、物語が無理矢理収束させられてしまっているという点で脚本(脚色)に問題がある。

だがまあ、そんな保留はこの映画にとって些事なのだ。この作品はそのディテールの面白さを堪能すれば良いのである。それで十分元が取れる。ヒッチコックはかつて演技に悩むイングリッド・バーグマンに「たかが映画じゃないか。」と言ったそうだが、その通り!たかが、漫画映画じゃないか。煩いことは抜きにしようぜ。

物語の背景となる戦争をお座なりに処理した代わりに、<老人力>漲る宮崎翁が心血を注いで描いたのはコミューン=共同体で生きることの愉しさである。共産主義者(コミュニスト):宮崎駿(←クリック)の面目躍如たる躍動感である。このコミューン幻影というのは「風の谷のナウシカ」の<風の谷>や「もののけ姫」の<たたら場>の例を挙げるまでもなく、宮崎翁の従来からの特色である。

そういう意味では「ハウルの動く城」は宮崎アニメの集大成とも言えるだろう。「未来少年コナン」のギガントによく似た飛行船が登場するし、「天空の城ラピュタ」の飛行石も出てくる。ハウルの変身は「千と千尋の神隠し」の湯婆婆を彷彿とさせるし、彼の城の動きはまるで「風の谷のナウシカ」に出てくる王蟲(オーム)みたいだ。

宮崎翁はコミュニストだから当然平和主義者である。しかし一方で戦車とか軍艦、戦闘飛行船などの乗り物を偏愛している人である。だから実は戦争を描くことが大好きなのだ。この自己矛盾こそが宮崎アニメの本質であり魅力なのだ。その特徴が「ハウルの動く城」でも存分に発揮されているので、それだけで筆者は大満足なのである。

ハウルは今までの宮崎作品の中で一番の美形ヒーロー。アニメ雑誌の人気投票で上位にくるのは必定。その他にも宮崎さんらしい奇想天外で魅力に溢れたキャラクターが今回も目白押しである。

宮崎駿、老いてなおその創作意欲とイマジネーションは衰えることを知らず。宮さん、もう引退するなんて言わないでこれからも大いに僕たちを愉しませて下さい。

なお、余談であるが声優陣では天才子役の神木隆之介 くんが最高に良かった。映画「恋愛小説」の神木くんも必見。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]