エンターテイメント日誌

2004年10月09日(土) 香港マフィアはシチリア島の夢を見るか? <無間序曲>

インファナル・アフェア「無間道」は掛け値なしのA級香港ノワールであった。さてその続編「無間地獄」である。

今回はアンディー・ラウとトニー・レオンという二大スターが出演しないこともあって地味な感は否めない。日本では興行的にも振るわず既に上映は終了してしまった。しかし、その内容はなかなか充実しており、一作目ほどのインパクトや完成度は望むべくもないが、それでもB+の評価は進呈したい。筆者は十分愉しめた。

ただ少々残念だったのは前回、耽美派撮影監督クリストファー・ドイルが映画に参加していたお陰で、スタイリッシュで引き締まった映像に魅了されたのだが、今回ドイルの名前がクレジットから外れたために映像が比較的平板になったきらいがあることである。

「無間序曲」について深作欣二監督の「県警対組織暴力」を彷彿とさせるという批評を複数見かけたのだが、筆者が一番この作品に色濃く影を落としていると考えるのはコッポラの「ゴッドファーザー PartII」である。一作目よりも過去を遡るという構成、父親の死でファミリーのトップに立たされた者の苦悩。兄弟が全て黒社会に生きているのではなく中には堅気もいるという設定、さらに家族写真の場面や車のエピソードなど「ゴッドファーザー」を意識しているのは明らかである。

新たに登場するボス・ハウ役の呉鎮宇(フランシス・ン・ジャンユー)が素晴らしい。また、前回よりも見せ場が増えたサム役の曾志偉 (エリック・ツァン)が渋くていい味出している。実質的に彼が今回の主役と言っても過言ではない。欲がなく、決して前面に出ようとしないおとなしいサムが運命に翻弄され否応なく黒社会のトップに登り詰めざるを得なくなってしまう過程が克明に描かれる。しかし映画のラストで花火を見つめる彼の顔に笑顔はない。漂うのは哀愁のみ。

実はサムも、そしてウォン警部(後に警視)も無間道=無間地獄に墜ちた人間だったということが本作で明らかになる。進むも地獄、退くも地獄。そして周囲を見渡しても、ただ地獄の亡者たちが徘徊するばかり。そういう虚無感漂う面白さがこのシリーズにはある。正にこれぞ、ノワールの神髄である。


 < 過去の日誌  総目次  未来 >


↑エンピツ投票ボタン
押せばコメントの続きが読めます

My追加
雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]