エンターテイメント日誌

2004年09月04日(土) Shame on you, Mr.Bush ! <華氏911>

「ボーリング・フォー・コロンバイン」が最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞したとき、マイケル・ムーア監督はアカデミー賞授賞式の壇上で「ブッシュよ恥を知れ!」と雄叫びを上げ、大ブーイングを喰らった。合衆国がイラク侵略を開始した直後の出来事であった。今から想えば、あのときからムーアの「華氏911」(=自由が燃え尽きる温度)は始まっていたのである。

「華氏911」は極めて優れたプロパガンダ映画である。しかし残念ながらこれはドキュメンタリー映画ではない。何故ならドキュメンタリーとはその作家がいかに描く対象に肉薄できるかを問われるのであるが、この作品の主役であるブッシュが登場する映像の殆どがテレビ・ニュースの流用であり、マイケル・ムーアとブッシュが直接対決をする映像はなんと一分にも満たないのである(しかも両者の間には相当な距離がある)。主役を間接的にしか描写できなかったという点がこの作品の最大の弱点である。だからムーアとその取材班が実際に撮った映像は全編の半分余りに過ぎず、これでムーアの作品と呼べるのだろうか?とも想うし、画質の粗いテレビ映像を映画館の大画面で見る意義がどこにあるのだろう?という疑念もふつふつと湧いてくる。

そういうわけで緩急を使い分けた編集も見事だし、大変分かりやすい構成で2時間という上映時間が全く退屈する瞬間もなく過ぎていったことを高く評価しつつ、前述した理由によりこの映画の評価はB+とする。この作品でムーアが来年再びアカデミー賞を受賞することについては熱烈に応援したいが、カンヌのパルムドール受賞については首を捻らざるを得ない。

しかしまあ、それでも自らの命を賭してこの映画を撮ったムーアは偉いし、親会社ディズニーの意向を無視してその製作にGOサインを出したミラマックスのハーベイとボブ・ワインスタイン兄弟の功績も讃えねばなるまい。

「華氏911」で感心したのは確かに直球のプロパガンダなのだが、ムーアがブッシュを憎むのは決してムーアが反共和党で民主党支持者だからとか、共産主義者であるとかといった思想的理由ではなく、地位を利用して私腹を肥やし、アホで間抜けなアメリカ国民たちを騙し恐怖感を煽って、低所得者層の若者を戦場に追い立てるブッシュとその取り巻き達や、軍事ビジネスに投資して甘い汁を吸うカーライル・グループなどの多国籍複合企業の経営者たちが許せないという個人的理由=独裁者への怒りから本作を制作したのだという意図が良く分かったからだ。ムーアにとっては、ブッシュでさえなければ誰が大統領になってもちっとも構わないのだ。

それにしても、この映画を観て単純に大統領選でケリー支持に転向するアメリカ人たちもみっともないよなぁ。イラク侵略当初はアメリカ国民の実に90%以上がブッシュ支持であったことを我々は忘れてはいけないだろう。すべての罪をブッシュひとりに押し付けるのは簡単だが、悪魔(evil)は自分自身の心の中に棲んでいることを自覚してもらいたいものだ。あのヒトラー率いるナチスだって選挙で正式に選ばれたのだ。ホロコーストに対して当時ナチス党に投票した全ドイツ国民に責任があるように、現在イラクの置かれた状況に対してアメリカ国民は責任を負わねばならない。知らなかったでは済まされない。無知であるということの罪もある。そしてそのことはアメリカを支持した日本にも当てはまるのである。


 < 過去の日誌  総目次  未来 >


↑エンピツ投票ボタン
押せばコメントの続きが読めます

My追加
雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]