エンターテイメント日誌

2003年09月15日(月) 本年度NO.1の青春映画現る!<ロボコン>

今回の日誌を読んでいる者に告ぐ。こんなレビューはさっさとうっちゃって直ちに映画館に駆け込め!「青の炎」と並ぶ、邦画における本年度最高の収穫、「ロボコン」をゆめゆめ見逃すな。

筆者が気になるのは映画初日にシネコンで「ロボコン」と「座頭市」のはしごをしたのだが、北野映画にしては珍しく(いや、初めて)大人気で指定席扱いだった「座頭市」と比較して、自由席の「ロボコン」は空席が目立ったこと。しかも「ロボコン」は昼間のみの上映で夕方以降は別番組に切り替わっている。まるでお子様向けのアニメか怪獣映画みたいな扱いなのだ。ここで断固強調しておく。「ロボコン」は中高生の少年少女が観ても勿論感動する名作だが、これは<かつて高校生だった大人たち>のための清々しい正統的青春映画でもあるのだ。口コミでこの映画の素晴らしさが広まり、ロングランに繋がることを切に願う。

念のため確認しておくが「ロボコン」とはロボット・コンテストのこと。映画の公式ホーム・ページはこちら(←クリック)。

まず筆者が気に入ったのが脚本&監督を担当した古厩智之さんの生きる姿勢である。古厩監督は自主映画出身で、大学時代に撮った16ミリ短編「灼熱のドッジボール」が、'92年ぴあフィルムフェスティバル(PFF)でグランプリを受賞。その奨学金で'94年に長編映画「この窓は君のもの」を創った。「この窓は君のもの」を筆者は観ているのだが、片田舎を舞台にした瑞々しいヒロイン映画であり、主演の女の子がとても魅力的に描かれ非常に好ましい印象を覚えた。この作品で古厩監督は日本映画監督協会新人賞を受賞している。

しかしこの人の偉いところはこのとんとん拍子の成功にも決して自分を見失わず、奢ることがなかった点である。その後プロの現場を学ぶため助監督として数々の映画で7年間修業したそうだ。そして満を持して世に問うた「まぶだち」はロッテルダム国際映画祭でグランプリを受賞、この監督の郷里・長野県を舞台に少年たちが生き生きとしたこの青春群像劇は日本でも高く評価され、キネマ旬報ベストテンでは7位に入選したのである。

PFFからは沢山の監督が生まれ、続々と劇場映画デビューしたが、その大半は1,2作撮っただけで瞬く間に消えていった。つまり感性だけならば一度くらいは素人でも優れた作品が創れるのだが、技術が伴っていないので大抵は<一発屋>で終わってしまう。これは映画に限ったことではなく、例えば文学の世界では「太陽の季節」でセンセーショナルなデビューをした石原慎太郎氏をはじめとして歴代の芥川賞作家たちも受賞後が続かない<一発屋>が多かったことと決して無関係ではない(かつて「なんとなくクリスタル」で文藝賞を受賞した田中康夫という一発屋もいた)。古厩監督が選んだ道が正しかったことは「まぶだち」と今回の「ロボコン」で鮮やかに証明された。

監督が公式ページに寄せた一文をここで引用しよう。
本物の高専生たち…長澤、小栗、伊藤、塚本の自由な感情…それらに映画を撮らせてもらいました。ありがとう。
なんと謙虚で美しい言葉なのだろう。監督の人柄が偲ばれて、もうこれを読んだだけで心打たれた。

さて前書きはこれくらいにして肝心の「ロボコン」である。またまた田舎町が舞台である(都会で撮らないその頑なさも好ましい)。今回選ばれたのは山口県徳山市(現周南市)。その高等専門学校生たちが主人公だ。彼らの服装は学生服であり、ある時は作業服だ。決して洗練されていないし、むしろ野暮ったい。でもそこが良い。ヒロインの長澤まさみが海や工場を見下ろせる小高い道を自転車で駈け抜ける映像を見ただけで「嗚呼、これぞ青春映画だっ!」と溜め息が出る。今関あきよし監督の「アイコ16歳」や大林宣彦監督の「さびしんぼう」「ふたり」などの例を挙げるまでもなくヒロイン映画に自転車は必須アイテムなのだ。古厩監督の「この窓は君のもの」にも自転車のシーンがあったことを懐かしく想い出した。

「アイコ16歳」では名古屋の高校の弓道部が舞台となった。そしてあの不朽の名作「がんばっていきまっしょい」は四国・松山を舞台にボート部に青春を賭ける女子高生たちの物語であった。「ウォーター・ボーイズ」はシンクロナイズド・スイミングだ。実はこのように運動部を題材にした青春映画の傑作は沢山あるのだが、理数系の青春が取り上げられるのは映画史上今回が初めてではなかろうか?そういう意味でも非常にユニークな映画であるといえよう。

ロボコンという競技は決して勝敗が総てではないんだという哲学が、映画でも実に分かり易く丁寧に描かれており、感銘を受けた。映画の現場でも長澤まさみは実際にロボットを操作したという。そのガッツに力いっぱい拍手を送りたい。本当に良いものを観せてもらった。心からありがとう。

映画の冒頭でヒロインが分厚い眼鏡をかけて登場し、一見堅物のように描いておいて、その後彼女が眼鏡を外すと絶世の美女に変身するという手法は「白い恐怖」などでアルフレッド・ヒッチコックが編み出し、後の監督たちが模倣している有名なテクニックだが、「ロボコン」ではそのバリエーションとして男の子に引用しているのがすこぶる面白く、非常に効果的だった。

ロボットおたくの先生のキャラクターも微笑ましかったのだが、なんといっても最高だったのは敵対するチームのキャプテンを演じた荒川良々(あらかわよしよし)。もうまるで、彼が演じた映画「ピンポン」の<キャプテン大田>がそのまま転校してきたのではないかという絶妙なるキャラクターで爆笑の渦に巻き込んでくれた。とぼけた味があって、まことに得難い役者である。必見。

余談だが劇中で長澤まさみがトラックの荷台で山口百恵の「夢先案内人」を唄う場面がある。カラオケで百恵の唄は彼女の十八番とか。しかし、百恵が引退した時(1980年)彼女はまだ生まれてもいなかった筈。どこで覚えたんだ!?・・・面白い娘である。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]