エンターテイメント日誌

2002年10月06日(日) 二本の日本映画<竜馬の妻とその夫と愛人><阿弥陀堂だより>

<竜馬の妻とその夫と愛人>

僕は劇作家・三谷幸喜さんの芝居が大好きである。

・生で観た舞台作品「彦馬がゆく」「Vamp show」「笑の大学」「君となら」「アパッチ砦の攻防」「温水夫妻」「オケピ!」「You Are The Top今宵の君」
・ビデオあるいはTVで観た舞台作品「天国から北に3キロ」「ショー・マスト・ゴー・オン」「バイ・マイセルフ」「巌流島」「マトリョーシカ」
・映画版を観た元舞台作品「十二人の優しい日本人」「ラヂオの時間」(いずれも三谷さんが脚色)

で、結論としては三谷さんは現役で世界最高のコメディ・ライターである。ニール・サイモンなんか、とっくの昔に軽く凌駕している。大傑作「王様のレストラン」をはじめとするテレビ作品も悪くないが、やはり彼の本領は舞台で発揮されると想う。ちなみに僕の選ぶ三谷作品ベスト3は「彦馬がゆく」「笑の大学」そしてミュージカル「オケピ!」かな。でも駄作「Vamp show」を唯一の例外として舞台では当たり外れのない作家である。

「竜馬の妻とその夫と愛人」は元々舞台作品で、それを三谷さん自らが映画用に脚色された。残念ながらこの舞台版は未見である。映画を観た感想としては伏線が張り巡らされた流石に考え抜かれたコメディで、お見事としか言えない完成度である。特に最後のオチには参りました。感服。

三谷ご夫妻が特別出演なのもご愛嬌。特に小林聡美さんが夫君の作品に出演するのは、ふたりの出会いのきっかけとなった「やっぱり猫が好き」以来だろう。

しかし残念ながら今回はどうも余り笑えない。その一番の原因は監督の市川準にあることは間違いないだろう。この監督、どうも体質がコメディに合っていないのではなかろうか?全体的に軽妙であるべきテンポが重いし、役者の熱演が空回りしている感がどうしても否めないのだ。市川監督の映画はデビュー作「BU・SU」以降、大概観ているが面白いと想ったことが一度たりとない。僕は彼の作品を「自閉症の映画」と命名しているのだが、CM出身者らしく表面的な映像にこだわり過ぎ、登場人物の感情が見えてこないきらいがあるのである。

という訳で今回の作品では三谷作品と市川演出との温度差がいびつに現れてしまっている。結局のところ、三谷さん自身が監督された方が遥かに面白かったのではなかろうか?

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<阿弥陀堂だより>

小泉監督のデビュー作「雨あがる」は故・黒沢明監督の遺稿を映画化したもので、なんとも清々しい静かな感動が余韻を引く作品であった。そこで描かれた夫婦愛も心に滲みた。これは黒沢さんのテイストが強いのかなぁと想像していたのだが、今回の「阿弥陀堂だより」でも全く同様の感慨を覚えたのだから驚いた。黒沢明の呪縛から開放されてもこれだけの傑作を仕上げて世に問うのだから、これは間違いなく本物である。映画のゆったりとしたリズムに心地よく乗せられ、涙し、癒される。そういう作品である。

兎に角、北林谷栄さんが素晴らしい。撮影当時90歳。北林さんは映画界の至宝である。岡本喜八監督の「大誘拐」以来10年ぶりの映画出演。日本映画はどうしてこのような大女優を今まで放ってておいたのだろう?憤りを感じずにはいられない。貴方が真の日本人であるのなら、そして映画を愛しているのなら、今すぐ映画館に駆けつけろ。そうすれば北林さんの圧倒的な存在感に心震わさずにはいられないだろう。

この映画は期せずして大林宣彦監督の「なごり雪」と志が同じ方向へと向いている。それはかつて美しかった日本、そして日本映画への限りない哀惜の念に満ちているということだ。そして日本映画の黄金期を担った名優、田村高廣と香川京子がどっしりと脇を固め、映画の格調を高めている。

日本と日本映画への悲歌(エレジー)。それが「阿弥陀堂だより」なのである。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]