エンターテイメント日誌

2001年11月05日(月) テルミン博士の大冒険

「テルミン」という摩訶不思議な音色を奏でる電子楽器の存在を知ったのは、僕が中学生の頃である。ヒッチコック映画が好きでイングリット・バーグマンにも憧れを抱いていたうぶな少年だったので(^^;、当然の成り行きで「白い恐怖」を観た。アカデミー作曲賞を受賞したそのミクロス・ローザ作曲による音楽は、美しく浪漫的でたちまち魅了された。そしてグレゴリー・ペック演じる主人公が白地に縞模様を観ると眩暈に襲われるその場面で、テルミンが効果的に使用されていたのである。

ローザは当時テルミンがお気に入りだったらしくビリー・ワイルダー監督のアル中映画「失われた週末」でも導入している。これまた僕のお気に入りの作曲家バーナード・ハーマンもSF映画「地球が静止する日」でテルミンを用いている。このサントラCDは勿論愛蔵版として所持しているが、実は映画自体は観たことがない(笑)。

こうして、僕にとってテルミンはオンド・マルトノ(オリビエ・メシアンが「トゥーランガリーラ交響曲」で使用したことで有名な電子楽器)と並んで20世紀に生まれた最も謎めいた、魅力的な楽器として記憶されてはいたのだが、実際のところ楽器自体を見たことはなく、オンド・マルトノ同様鍵盤楽器なのかな?などと、いい加減な想像していた。

この度遂に今年最大の話題作、ドキュメンタリー映画「テルミン」を観ることが出来て、まずその異様な演奏法に驚いた!楽器に一切触れることなく、手を近づけたり遠ざけたりする事により音程や音の強弱が決定されるなんて前代未聞、想像だにしなかった。自分の絶対音感だけが頼りだからある意味それは最も「うた」に近いかも知れない。電子楽器という近代性とは裏腹のアナログな奏法。このギャップが面白く、又テルミンを演奏する姿は何処か滑稽ですらある。それこそSF的光景と呼んでも良いだろう。

この奇天烈な楽器を創作したテルミン博士がまた、想像通りの変わり者だから可笑しい。彼が発明したという他の楽器も映画の中で紹介されるが、どれも実用性の乏しい奇妙な物ばかり(^^;。「テルミン・ダンサー」というのが存在したという事実がまた爆笑もの。映画に登場し、コメントする博士の知り合い達も何処か風変わりな人たちである。でもそこが魅力的であり、何だか愛おしいんだなあ。テルミン博士が辿った驚天動地、波瀾万丈の生涯にも触れたいのは山々なのだが、そこのところは貴方自身で映画をご覧になりご確認下さい。しかし、博士の発明品を見る限り、国家の役に立つ研究とは僕にはとても思えないのだが・・・

その想像を絶する人生には語り尽きせぬ苦悩もあっただろう、絶望的な境地にも追い込まれたであろう。しかしその人生の終わりに、愛弟子であり生涯の恋人でもあったクララと長い年月を経て再会した博士の表情は穏やかな笑みを浮かべ、満足そうであった。その時の博士の顔こそがこの映画最大のクライマックスである。必見。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]