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-- 2005年12月05日(月) --

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『船弁慶』(平家物語その十二)

☆知盛様、リターンズ!

『平家物語』二次創作では、史実や物語本編では実現しなかった人気キャラの顔合わせも可能です。

先日、TVで歌舞伎の『船弁慶』を放映していました。
文治元年(1185)11月、兄・頼朝の追討の手を逃れ、都から西国に落ち延びようと瀬戸内海へ船出した義経一行が、折からの暴風に阻まれ漂着した──という史実から生み出された謡曲『船弁慶』をそのまま歌舞伎に写したものです。

浦々島々に打ちよせられて、互いにその行くへを知らず、忽に西の風の吹きける事も、平家の怨霊のゆゑとぞおぼえける。 『平家物語』巻第十二 判官都落

『平家物語』ではこれだけの世間の噂だったのが、後に書かれた『義経記』の中で弁慶がこの雲は平家の悪霊に違いない、と言いだして、謡曲『船弁慶』で、ついに「平家の一門雲霞の如く、波に浮みて見えたる」話が完成します。

大物浦で静と別れた義経主従が沖へ漕ぎだすと、
やがて沖に黒雲が現れ海が烈しく荒れる中、平家の亡霊達が姿を現す。

抑もこれは、桓武天皇九代の後胤、平の知盛、幽霊なり

知盛の亡霊が大薙刀を振りかざして義経を襲う。
義経は太刀で立ち向かうが相手は亡霊、
やおら弁慶巨大な数珠を押し揉み、悪霊調伏の経文を唱える。
打ちかかる知盛、祈り返す弁慶、やがてさしもの悪霊も払い除けられ、
舟は浜辺に打ち寄せられた。

弁慶、貴殿、そんな法力あったんかい!
‥‥弁慶といえば見せ場は怪力頼みのアクションや命懸けの主従愛ばかりだったので、すっかり法師だという事を忘れていましたよ。
その手があったか。

お懐かしや知盛様、『平家物語』ではあんまり怨念を持ちそうにないクールでさっぱりしたキャラの新中納言が亡霊の総大将なのは、『平家物語』にはなかった義経様と知盛様のライバル直接対決が見たい!というファンの声を反映しているのでしょうね。

猿之助の狐忠信の宙乗りで有名な歌舞伎『義経千本桜』の、二段目「渡海屋」になると、死んだと思われた知盛が身を窶して義経一行を迎え、亡霊のふりをして復讐を遂げようとするという更にひねった話になっています。
『義経千本桜』には知将・知盛の他にも美男・維盛、猛将・教経ら死んだはずの平家の人気キャラが、皆実は生き延びていて活躍します。
あんまり歴史を曲げ過ぎても困るので、全員またやられてしまいますが。

それにしても、かつて暴風雨の海をものともせず屋島に攻め入った義経が逃亡の際嵐の海に阻まれたのは、実は西国の海を統治し、西国の海に沈められた平家の怨霊のせいだ、というのは良く出来た話ですね。
本編の表面には現れていない部分の人間関係や事件を、本編の世界を崩さずより深めるように「妄想」するのはまさに二次創作のお手本。

TVで見た歌舞伎では、弁慶・中村吉右衛門、知盛・中村富十郎。
華麗な怨霊メイクの小柄な知盛が幕の後ちょこちょこと花道を出で、大薙刀を鮮やかにぐるぐるぐるぐると捌いて拍手喝采。

十二月大歌舞伎(十二月二日初日〜二十六日千秋楽・歌舞伎座)夜の部で『船弁慶』。平知盛の亡霊(静との二役)は玉三郎、船頭に勘三郎、機会のある方は是非どうぞ。(ナルシア)


謡曲『船弁慶』 作:観世小次郎信光
人形浄瑠璃・歌舞伎『義経千本桜』作:竹田出雲・三好松洛・並木千柳

2002年12月05日(木) 『チョコレート工場の秘密』
2001年12月05日(水) 『不眠症』(その2)
2000年12月05日(火) 『誰か「戦前」を知らないか』

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