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-- 2005年11月21日(月) --

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『平家物語(一)』 巻第一〜巻第三(平家物語その三)

☆清盛と重盛

岩波文庫第一巻は平家物語巻第一〜巻第三まで、かの有名な『祇園精舎の鐘の音』で始まります。

『平家物語』が後世に一番影響を与えたキャラクターイメージといえば

六波羅の入道前太政大臣平朝臣清盛公と申し人のありさま、伝うけ給るこそ、心も詞も及ばれね。

なんといっても大悪人・平清盛!
文章では悪、悪、と書いてはあるけれど、読んだ印象としては個々の善悪がどうこうというというレベルを越えてパワフルで、スケールが大きくて、ものすごくカッコイイです、「平家物語」の清盛。

『平家物語』では登場人物も事件も史実に沿ってはいますが、「物語」として盛り上がるように実に上手く構成されています。当然史実とは異なっている場合も多いのですが、「物語」を成立させるために造形された人物像や事件構成のほうが、日本人の心に実像として残っているのを見ると、「物語」の底力を思い知らされます。

本編に清盛が登場したときにはもう五十歳過ぎ、前太政大臣ですでに出家しています。栄華を極めた一族の振る舞いは殿上人の反感を買い、それまで清盛とうまくいっていた後白河法皇を含めた、アンチ平家が陰謀を画策します。
有名な「鹿ヶ谷」の密議の晩、共謀者達の駄洒落に法皇が大受け。

法皇ゑつぼ(笑壷)にいらせおはしまして

この時代でもツボに入ると笑いがとれるんですね。
こんないい加減な陰謀はあっさりバレて、陰謀の首謀者達は悲惨な末路を遂げます。

西光法師を縁先に引き据え清盛が責める場面が大層な迫力。憎々しげに嘲笑う西光、怒りの果てに静かに残虐な刑を言い渡す清盛、一歩も引かぬ悪人対決。
宮尾本を読んで比べてみましたが、同じ場面でも現代語にするとそれほどには感じない。これこそ原文の威力だな、と感心して、以降どっぷり原文びいきとなりました。

この悪の魅力全開の清盛に対して、長男・重盛という人は父親とは対象的に、道徳を重んずる落ち着いた人格者に設定されています。
実際は、「天下の乗り合い」事件で復讐したのは清盛ではなく重盛だった、という資料もあるらしいので、それほどの人格者ではなかったのかもしれませんが、「物語」では道を外しがちの父と、道を説く息子の構図になってます。
あまりにも優等生で説教臭いので重盛は嫌い、という人もいますけれど、私は大したキャラだと思いますよ。だって、あのパワフルな父に真正面から「正論」を説いて暴走を止めちゃうんですから。武力を使わず言葉で怪物をコントロールする論理派。
ところが、病で惜しくも四十三歳で亡くなってしまいます。

かくして清盛の暴走を止めるものがなくなり、そのあげくの果てが政府高官の総とっかえに、後白河法皇の軟禁。重盛が死んだらさっさと領地をとりあげちゃう法皇も考えが無いのですが、朝廷側から見れば神をも畏れぬ所行。
『平家物語』の「悪」と言うのは、人間を苦しめる事以上に、神仏をないがしろにする事を指すのでしょうね。天皇は神の子孫ですから、それを貶める以上の悪はない。

かくして平家は滅亡への道を転がり落ちて行く。(ナルシア)


『平家物語(一)〜(四)』 校注:梶原正昭・山下宏明 / 岩波文庫

2003年11月21日(金) 『とびらをあけるメアリー・ポピンズ』
2002年11月21日(木) 『シルクロードの鬼神』その2
2001年11月21日(水) 『図説 ニューヨーク都市物語』 / 『イスラームの日常世界』
2000年11月21日(火) 『十月のカーニヴァル』

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