HOME*お天気猫や > 夢の図書館本館 > 夢の図書館新館

夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2002年11月21日(木) --

TOP:夢の図書館新館全ての本

『シルクロードの鬼神』その2

人は、この時代、どこかで生きたという痕跡を どうやって残せるのだろう。 いや、そもそも、痕跡を残すべきなのだろうか? 残そうとしなくても、足跡は残るのだろうか。

単は、捜査の旅の途上で、さまざまな人物に会う。 風貌も、言葉もちがう少数民族の、魅力的な人たち。 たとえば、龍馬(ロンマー)と呼ばれる組織の毛(マオ)たち。 安全のため、全員が本名を名乗らず毛何某と名乗る。 龍馬とは、伝説の生き物で、庶民を不当なことから守る神だという。 レジスタンスの闘士にはうってつけの名である。

山に入ると、決して見つけられない遊牧民の家族もいる。

前作にならって(?)アメリカ人も登場するし、 中国人のなかにも、単を理解する人物があらわれるのは心にくい。

なかでも、単とほとんど常に行動を共にしたウイグル人の女性、 アルタシ一族のジャクリとの関係は、単の比類なき繊細さを きわだたせている。

20代なかばくらいのジャクリは、婚約者のニッキと 遊牧民の祭り、ナーダムで再会し結婚することを願っている。

聡明で勇気があり、美しいジャクリ。 単たちと生死をともにしたジャクリ。 彼女は、単の持っている損なわれた部分を想像する。 少数民族として経験してきた苦渋を、彼女も味わっているから。 とはいえ、単に、強制労働所に長年いたにしては、顔に出ていないと 真実を突いたことを言ったりもする。 顔に出ないから単らしいのだが、その理由を単自身が ちゃんと考えろと言わんばかりに。

親子ほど年のちがう単とジャクリの会話を たどっていると、ふと、ある人物を思い出した。 単と同じ種類の魂をもった、別の世界の魔法使いのことを。 そう、山だけの世界と対極にある、海だけの世界、 アースシーの大魔法使い、ゲドの面影を。

そのゲドが、地下の魔宮から救い出した少女アルハの 面影もまた、ジャクリに重なってゆく。 ゲドの世界を愛する人には、単の世界もまた貴重な水となるだろう。

単が深く敬愛する寡黙な師匠ゲンドゥンという名からも ゲドを連想してしまうのだが、それは行き過ぎだろうか? (ちなみにゲドの師匠は物言わぬオジオン)

ともあれ、第三作では舞台がまた変わるようで、 ゲドの身に起こったような変化が、賛否はあるだろうが、 単にも起こるのを期待して待つことにしよう。
(マーズ)


『シルクロードの鬼神』上・下 著者:エリオット・パティスン / 訳:三川基好 / 出版社:ハヤカワ文庫

2001年11月21日(水) 『図説 ニューヨーク都市物語』 / 『イスラームの日常世界』
2000年11月21日(火) 『十月のカーニヴァル』

>> 前の本蔵書一覧 (TOP Page)次の本 <<


ご感想をどうぞ。



Myエンピツ追加

管理者:お天気猫や
お天気猫や
夢図書[ブックトーク] メルマガ[Tea Rose Cafe] 季節[ハロウィーン] [クリスマス]

Copyright (C) otenkinekoya 1998-2006 All rights reserved.