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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2004年08月09日(月) --

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『仕事と年齢にとらわれないイギリスの豊かな常識』

☆その通りなんだけど。

私たち日本人の一般的な常識と井形さんの見たイギリスの常識は こんなにも違う。 目から鱗、とまではいかなくても、なるほどとときおり頷く。

最近、私自身がよく思うのは、年を経ることの豊かさ。 私にとっても、老いは衰えであり、どうしても悲しいイメージを払拭できない。 頭の中では、若さにこだわることの愚かさがわかってきているのだが、 なかなか、自分のこととして、老いの豊かさを見いだすことができない。 最近、故白州正子さんのエッセイを読んだ。 白州さんの本からは、老いることの豊かさが自然に伝わってくる。 年を経ることで、やっと得ることのできる人としての実りを はっきりと感じることができる。 他人事としてなら、わかっているのに、 日々の私は、少しでも若く見られたいと思っている愚か者である。

仕事に追われ、年齢という障壁を日々感じる毎日を送っていると、 井形さんが本の中で紹介しているイギリスの人々の仕事へのスタンス、 年齢にとらわれない人間関係がもたらすものの豊かさに、 憧れを感じる。 家や土地に縛られず、ましてや仕事に縛られることもなく、 リタイアの時期を自分で決め、 自分の住みたい場所で、リタイア後のまた新たな人生を始めるイギリス人。 その自由を享受できる社会の仕組み、国のあり方をしみじみうらやましく思う。

井形さんの本に描かれたイギリスはパーフェクトであり、 文章もとても明快で、とてもおもしろい。 おもしろいのだけれど、しかし、イギリスはそこまで成熟した 完璧な国なのだろうかと、疑問が残る。

私にとってもイギリスは憧れの国で、たとえばそこに暮らすことができれば、今までの悩みも解決して、のびのびと晴れやかに生きていけるのではという、幻想がある。 でも、もちろんそれは、幻想に過ぎず、実際に根を下ろして暮らし始めれば、しあわせを感じることもたくさんあるだろうけれど、 そこには現実の厳しさが待っていることもわかっている。

井形さんの本を読みながら、イギリスの豊かさに触れ、 人生へのいろいろな示唆を与えられつつも、 なんだか、井形さんの憧れのサイズで切り抜かれたイギリスが、 まるでイギリスの全貌のように語られているところに違和感を感じてしまった。

ルポではなくエッセイだから、軽く読み流すべきで、 とりあげられたイギリス人のライフスタイルやものの考え方などの 真偽を気にかけるのは野暮かもしれない。 最初から最後まで、イギリスの典型として紹介される事例や 井形さんの考えを裏付けるのが、 井形さんの身近の誰かや、たまたま井形さんが知り合った誰かであり、 あるいは匿名化された市井の人々の話したことであったりと、 いつも誰か一人の話を引用することで片づけられているところを シンプルでわかりやすいととるのか、 あまりにも強引なことだと受け止めるのか、 そこで、この本への評価が分かれるのかもしれない。 誰か一人のつぶやきを、まるでイギリス全体のオピニオンのように扱う 引用の仕方は、違和感だけでなく、大げさかもしれないが危険を感じる。 そう、木だけを見て、森全体を判断するような危険。

おもしろい本であっただけに、もう少し、客観性があれば バランスもよかったのではないだろうか。 イギリスの現実を踏まえた上でも、イギリスの豊かさ、 生活大国ぶりは語れたのではないだろうか。 共感できるところも多かっただけに、この違和感は大きく、 珍しく、読後に残念な気持ちが残ってしまった。 (シィアル)


『仕事と年齢にとらわれないイギリスの豊かな常識』著者:井形慶子 / 出版社:大和書房2002

2002年08月09日(金) 『クリストファーの魔法の旅』
2001年08月09日(木) 『影との戦い─ゲド戦記(1)』

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