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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2004年05月06日(木) --

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『十月のみずうみ』と『あのころはフリードリヒがいた』

原題は『The Blue Hill Medeows』 シンシア・ライラントらしい、 おだやかで細やかに過ぎてゆく時間。 平和に満ちてあたたかな往来が、メドウ家の 男の子、ウィリーのまなざしで語られる。

ウィリーの家に捨て犬が拾われ、 子犬を産み、大事にされる。 だれも、「もといたところにおいてきなさい」と言わない。 お兄さんもいるけれど、お父さんとウィリー、 二人だけで行った釣りの楽しさ。 吹雪の帰り道、大好きな先生の家に避難させて もらったこと。 お母さんのためのプレゼント。 一年は、そうしてめぐる。

人が人を大切にすること。 誰かが網からこぼれていかないよう、思いやること。 それが自然ななりゆきであるように、 一家の名前、メドウ(牧草地)のように、 太陽と水と土によって草がたゆまず生えるように、 自分たちのまわりにあってほしいと、 この小さな本は願っているのだろう。

その後すぐ、ナチに迫害されるユダヤ人家族と ドイツ人家族それぞれの少年たちを描いた 『あのころはフリードリヒがいた』を読んだ。 こちらも、ドイツ人の少年「ぼく」が主体となって、 悪化してゆくユダヤ人排斥を、淡々と描いている。 だからいっそう、ヴァージニア州ブルーヒルの町が 楽園のように感じられるのだ。

もし、生きる権利を奪われていったあの フリードリヒの家族が、もっと前にアメリカへ 逃げてきていたら。そうしたら、ブルーヒルのような町で 貧しくはあっても、平和でつつましい生活を送ることが できたかもしれない。 そんなことを思っても、しょうがないのはわかっていても。 逃げるということも、とどまるということも、 どちらも勇気のいることだけれど。

ブルーヒルのような平和な町にだって、 いつか恐怖がしのびよることも、 絶対にないとは言えないし、 そうなったとき、一個人に何ができるのかは 最近の世の中を見ていても、不安は去らない。 ただ、あの時代と同じ悪夢を繰り返さないために、 何かができるとすれば、それは大きな単位ではなく、 頂点を持たないごく小さな単位のつながりだろうと、 今は思うことにしている。

『あのころはフリードリヒがいた』

(マーズ)


『十月のみずうみ』著者:シンシア・ライラント / 絵:エレン・ベイァー / 訳:中村妙子 / 出版社:偕成社1998
『あのころはフリードリヒがいた』著者:ハンス・ペーター・リヒター / 訳:上田真而子 / 出版社:岩波少年文庫1977(2000新版)

2003年05月06日(火) 『せいめいのれきし』

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