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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2003年08月26日(火) --

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『妖精ディックのたたかい』

英国コッツウォルズの古い屋敷ウィドフォードを舞台に、 家付き妖精のホバディ・ディックが、大好きな人たちを守る。 守るといっても、人間たちにとってディックは、 あくまで『いるつもり』の存在である。 堂々と話をしたり、世話をしてもらったりはしない。 ときに、ぼろをまとった小さな人の姿をかいま見る人間も いるが、素朴な田舎の人たちに、さりげなく『いるつもり』で 接してもらえることが、家付き妖精の満足なのだ。 そういうことをしてくれる人は、ディックにとって 『わきまえた』人である。

ちょっとした食べものを専用のお皿に置いてもらったり、 魔よけのおまじないを、自分の好きな場所から外してもらったり。 自分たちのことだけでなく、妖精にもきちんとした待遇をする家は、 妖精のおかげで作物も育つし、家畜も増え、手仕事ははかどり、 栄えてゆく。

でも、家に付くものがすべて良いものとは限らない。 主人のベッドに住みついたしみったれのお金好きな幽霊や、 天国へ行けない過去の魂もいる。 鬼火や魔女、悪しきものたちも、そこらをうろつく夜。 妖精の世界に通じる塚があり、森があり、魔物の渡れぬ川があり。 ディックのいる英国の田舎は、そんな世界。

なんだか、この感覚って、日本のちょっと前の世界に似ている。 座敷わらしがいたり、野山にキツネやタヌキが化けて出たり、 歩くお地蔵さんや、山姥がいたりした頃の日本に。

ウィドフォード屋敷に越してきた富裕な商人ウィディスン一家と、 屋敷の本来の持ち主の血を引く名家の少女、アン・セッカー。 ウィディスン夫人の小間使いとなったアンが、 妖精ディックの出会った、いちばん好きな人間だった。 ディックには高貴なもやに包まれて見えるウィディスンのお祖母様は、 孤児のアンに優しく接してくれるが… 運命は、ディックの心配をよそに、歯車を回し始める。

そして、見えざる手によって、ディックは役割を果たす。 想像した以上の救いをもって幕を下ろした物語を読む私たちも、 その歯車の一員なのだろう。

いつかどこかで書きたいが、『つもり』というのは 奥の深いごっこ遊びだ。いってみれば、世のなかのことは何でも 『つもり』で始まり、終わるのだから。 (マーズ)


『妖精ディックのたたかい』 著者:キャサリン・M・ブリッグズ / 訳:山内玲子 / 出版社:岩波書店1987

2002年08月26日(月) ☆アートと本の切れない関係。
2001年08月26日(日) ★夢の図書館ナツヤスミのお知らせ。

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