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夢の図書館新館

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-- 2003年07月22日(火) --

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『子どもたちの日本』

幸田露伴、幸田文、芥川龍之介、佐藤春夫らの 文章を引用しながら、 子ども時代の記憶や体験を通して明治以降「日本」の近代を 「観念的に」描く。

「そんな観念的な話をするな」というように、 今の日本では軽んじられやすい、『観念』という観念。 詩人・長田弘は、 「世界というのは、観念」 「観念を感覚できるかどうかということで ぬきさしならないのが、言葉の問題」と言い切る。

敗戦後の不思議な明るさをもった時代。 そのころ小学生となった著者は、 実体験と入り道は異なるが、同じように 記憶のなかにとどまってゆく名作と出会う。 ここに描かれた名作の多くは、私たちの世代までに どこかへ隠され、新しい作家たちに道をゆずった。 今こうしてひもとかれ、ふたたびの命を得るだろうか。

このごろ思うのは、私たちの子ども時代が 高度経済成長のまっただなかであったこと。 それまでの日本になかったものや思いにとりまかれ、 社会全体が上をめざしてがんばって、 やがてオイルショックが来て、繁栄の限界を刻まれる。 長田弘は、無という観念を、幸田文の描いた父母の喧嘩から 悟ったというが、私の場合は、オイルショックの感じが それに近いのかもしれない。

子どもにはどうしようもない、行き止まりの標識。 死は体験のなかにもあったけれど、無、死の後に来るもの、 とおそれたあの重たい恐怖は、死よりもはるかに手ごわかった。 幸田文の研がれた文章から無を知った少年は、 深く文学的な体験を記憶してゆく。

巻末には、「故郷としての『あの時代』をつくったもの」 として、さまざまな物の名前が記されている。 百葉箱、鉱石ラジオ、石炭ストーブ。 その多くが、なつかしの食玩商品となって、 ノスタルジーを誘っている。

いま、ここにある時間の奥にある、もう一つの時間。 ──言葉の仕事は、そのようなもう一つの時間をもった言葉を、 いま、ここにみちびく、祈りです。(/引用)

(マーズ)


『子どもたちの日本』 著者:長田弘 / 出版社:講談社2000

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2002年07月22日(月) 『紙人形のぼうけん』

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