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夢の図書館新館

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-- 2003年06月26日(木) --

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「TEA with MILK」

「英米児童文学の宇宙」(ミネルヴァ書房刊2002)という評論集に、
「多文化社会と子どもの本」と題して、米国の日系作家アレン・セイの
「ミルクティー」(原題「TEA with MILK」)がとりあげられていた。
なぜか、この絵本は、私の本棚に数冊しかない英語の絵本の一冊である。
主人公の女性の名前が私と同じだからというので、
シィアルがいつだったかプレゼントしてくれた本。

この評論を読んで初めて、アレン・セイの絵本「おじいさんの旅」が
コールデコット賞を受賞していると知った。
著者と母(「ティー・ウィズ・ミルク」の主人公)をめぐる葛藤も、
この評論によって初めて知ったし、北米の
児童文学におけるこの絵本の位置付けにも納得している。

が、ひとつ気になったところがあった。
絵本を読んだことがある方でもおそらく見過ごしてしまう
と思われるので、あえて。

アメリカで生まれ育った主人公が、両親とともに日本に帰る。
慣れない日本で文化のギャップに悩みながら、
大阪のデパート(内装から心斎橋の大丸と思われる)で
働き始め、交際を始める男性と、初めてお茶を飲む場面。

画面の手前のテーブルには、着物姿の女性が、
奥のテーブルでは、男性と向かい合って座る洋装の主人公。
評論にも補完的に原画が掲載されているのだが、
モノクロで小さい。

評論の著者は、手前の女性客がミルクティーを飲む姿に
からめて、こう評している。

『口元を手で押さえて笑う女性客の様式化されたしぐさや
紅茶のスプーンを手みやげとともに箸のように、
直接テーブルの上においている不自然な姿は、
背後で紅茶を飲んでいる将来の父と母がのびのびと
自由に生きている時間に、
ついていけないことを示している。』(/引用)

たしかに、手前の女性は、スプーンを、カップ右側のテーブル上に、
縦に置いている。
しかし、絵本をよく見ると、
主人公の女性も、同じようにカップの受け皿ではなく、
テーブルの上に、縦にスプーンを置いているのである。
サンフランシスコで生まれ育ったにもかかわらず
そうしているということは、
著者アレン・セイがその事実にこだわっていないのか、
当時のアメリカではテーブルマナーとして一般的だったのかもしれない。
使った後のスプーンについては、カップの右側に縦置きする方法、
カップの向こう側に横置きする方法の2種類がともに伝統的らしい。


この場面は本来、仕事を通じて出会った異邦人である
主人公たちが、お互いに英語を使って話し、
「最近、こんな会話らしい会話をしたことがなかった!うれしい!!」
とばかりに喜びあう、ハッピーな場面である。

ミルクティーそのものは、タイトルにもなっているように
彼女の『奪われた』アメリカでの生活を象徴している。
前のページでは日本の茶道とも比較されているのだから、
ここで彼らが全員ミルクティーを飲み(和服の女性が飲んでいるのも
ミルクティーだという前提のもとに)、楽しんでいることは、
ついに、この瞬間にいたって、彼女を長く苦しめてきた
東西の壁がとけ始めた、というふうに考えてもよいのだろう。
(マーズ)


「TEA with MILK」 著者・絵:ALLEN SAY / 出版社:HOUGHTON MIFFLIN COMPANY 1999

2002年06月26日(水) 『イギリスとアイルランドの昔話』
2001年06月26日(火) ☆ネットの中身になる。

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