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夢の図書館新館

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-- 2003年04月03日(木) --

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「アースシーの風」(その1)

☆ゲドに迎えられて、再びアースシーへ。

待望のゲド戦記続編、第五巻の登場。
ゲドに再び会うという夢が叶った。
もう、ずっと、私よりも人生の先を行っている元魔法使いに。

この第五巻、原題は「The Other Wind」。
冒頭、元大賢人にして、元アースシーの大魔法使いが余生を暮らす
ゴント島へ訪ねてくるまじない師ハンノキを相手に、
木からとったスモモをうれしそうに見せ、畑仕事にいそしむゲド。
70歳かそこら、と描写されているゲドは、
実際はただものではないが、しかしもちろん、かつての
偉大な魔法の力は残っていない。
エンラッドのアレンこと、アースシーを治めるレバンネン王の
少年時代、ともに生者と死者の国を往き来したあの日以来、
それは同じだし、そこのところを変容させる作者でもない。

今回の物語では、あの暗い世界で生と死の境界に見えた『石垣』も、
大きな意味をもっている。あのとき語られなかった、かの世界の
生と死の秘密が、今、ようやく明らかにされる。


ゲド戦記シリーズは、出版年が途中から大きく開いている。
第三の「さいはての島へ」から第四の「帰還」までが18年。
さらに、作者によって『最後の書』と題されていた「帰還」から、
この完結編までが11年。

その間、異種のジャンルをも取り込んで成長しつづけた、
古典でありながら、異世界ファンタジーの枠には
とうてい収まりきらない作品群である。
たとえば、ファンタジーとフェミニズムといったように
2つ以上のジャンルがクロスオーバーしているため、
純粋に冒険ファンタジーが好きな人にとっては、
三巻まででじゅうぶん、ということになるだろう。
(賛否両論あるが、私は発売日に予約した賛成派)

ただし、2000年に、今回の完結編への糸口をかいま見せる
「ドラゴンフライ」が、本シリーズとは別に邦訳されていて、
こちらは、2001年に出版された「Tales from Earthsea」(未訳)の
なかの、5つの短編のうち、最後に入っている作品らしい。
(なぜ出版が前後しているのか、詳しい事情はわからないが、
米国で雑誌か何かに掲載されたものをロバート・シルヴァーバーグが
アンソロジーに編んで出版し、その訳が本編より先に出たということか?)
ともあれ、この短編集も、この後翻訳されていく予定とのことで、
また楽しみが増えた。

とはいっても、2001年からの読者である私にとっては、
大人になってから、すべてを短期間のうちに読めたことになる。
これは私にとっては、絶好のタイミングだった。
どんな読み方をしようと個人の自由だが、
ゲドたちの進む道に、グウィンがわざと伏せて置いた葉っぱを、
そっとひっくり返してみたことのある読み手は、
今、なぜグウィンが完結編を世に送り出したのか、
アースシーの世界に託して書かずにはいられなかった思いを
共有していることだろう。
(マーズ)

→ゲド戦記シリーズ
1「影との戦い」
2「こわれた腕環」
3「さいはての島へ」
4「帰還」
☆外伝「ドラゴンフライ」(「伝説は永遠に(3)」/ ハヤカワ文庫FT)


「アースシーの風」 著者:アーシュラ・K・ル・グウィン / 訳:清水真砂子 / 出版社:岩波書店

2002年04月03日(水) 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』

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