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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2003年02月06日(木) --

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『ロザムンドおばさんのお茶の時間』

☆イギリスの田園の平凡で、美しい暮らし。

ずいぶん前に、『ロザムンドおばさんの贈り物』が話題に なっていたことは知っていたけれど、ピルチャーの著書を 読むのは初めて。 こんな気持ちのいい本を今まで、見過ごしていたとは、 とても損をしたような気分。

とにかく、ロザムンド・ピルチャーの短編集は、 どの物語も読んでいて心が晴れやかになる。 イギリスの田園の美しさ、自然の豊かさとともに、 その地に暮らす人々、その地を愛する人々の日常の 「愛」や「情」がさらりと描かれている。

小説の中に登場する人々は、みんな普通の人たち。 その登場人物へのピルチャーのまなざしは、 日だまりのように暖かで、読みながらいつの間にか微笑んでしまう。 若ければ若いなりに、老いれば老いたなりに、 日々抱える苦しみや悲しみもあれば、喜びもあるし、 もちろん、いくつになってもそれぞれ自分の人生への期待や希望がある。 どの話にも、日常的でほのかな希望が灯るのがいい。 ゆっくりと自然に、物事がよい方に流れていく。 その「自然」な感じが、とても好きだ。

読んでいて気持ちのいい話ばかりなので、 次々と読み進み、あっという間に1冊読み終わってしまう。 そのほのかに灯った希望の、その先まで読みたいと、 そう思うが、物語は、淡々と終わってしまう。 もっと、この幸福な気持ちに浸っていたいという、強い思い。 そこがピルチャー作品の魅力だと思う。

『ロザムンドおばさんのお茶の時間』は、 初恋の少年に再会し、お互いの気持ちが通じ合う話 (「雨あがりの花」「湖に風を呼んだら」)や 少年と孤高な男性との間に芽生える友情を描いた話 (「丘の上へ」)など、登場人物の年齢が若く、 例えれば、人生の春から夏の物語。

私が特に好きなのは、「丘の上へ」と「再会」 「丘の上へ」では、10歳の少年オリヴァーが厳しい風貌の男性 ベン・フォックスの内面に触れ、お互いに心を開きあう。 オリヴァーから見たベンは、

際立った風貌  
びっくりするほど背が高く  
髪の毛と顎髭の燃えるように赤い色  
まじろぎもせぬ青い目

で、最初は、うさんくささと恐怖感を覚えるが、招き入れられた彼の部屋を見て、 恐ろしさよりも惹かれる気持ちが強くなる。

壁という壁に本棚が並び、しかもどの棚にも本がぎっしりと  
詰まっていた。オリヴァーは家具にも目を見張った。ゆったりと  
した、すわり心地のよさそうなソファー、エレガントなブロケードを  
張った椅子、見るからに高価そうなハイファイのプレーヤーの脇に  
LPのレコードが山づみになっていた。(本文より引用)

オリヴァーならずとも、ベンの部屋には、憧れと嫉妬を覚えてしまう。完璧だ。

短編集だから、何もかもが克明に描き込まれているわけではないが、 ここぞという時の、自然の美しさの描写や繊細な心の動きの細やかな表現に、 じっくりとその情景を心に描き出そうとページをめくる手が止まってしまう。

「再会」は、老境にさしかかった一人暮らしの古城の女主(メイベル伯母)が 賑やかなパーティを最後に城を手放す話で、これに若いふたり(トムとキティ) のロマンスがからむ。古城と老婦人の最後の輝きへのセンチメンタルな思いと共に、それぞれの再出発の物語。 理解者が乏しく、若い頃は回りに逆らい、無鉄砲なことばかりして、 つらい思いもしてきたキティが、新しい生活を始めるために、 トムに言ったせりふが印象的。

「自分の人生は自分で取りしきりたいのよ。」

再会したトムとキティ、住み慣れた城を離れ新しい生活に踏み出そうと するメイベル伯母のこれからの物語をもっと読みたい、 この先を知りたいと思ってしまう。

どの登場人物も、ささやかだけれど市井の自分自身の生活を 大切にしているのだ。 たぶん、その手の届きそうな幸福への予感に、 共感し、心地よさを覚えるのだろう。 それは、ごくごく普通の生活であるが、 一方では、遠いあこがれの中の夢の暮らし であることもわかっているが。
(シィアル)


『ロザムンドおばさんのお茶の時間』 著者:ロザムンド・ピルチャー / 訳:中村妙子 / 出版社:晶文社

2002年02月06日(水) ☆すき間読書、じっくり読書。
2001年02月06日(火) 『巫子』

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