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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2002年09月19日(木) --

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『陰翳礼讃』

灯火親しむ季節となりました。 みなさんのお宅の灯火はどんな具合でしょう? この頃はゆっくりくつろぐリビングルームなどでは 天井から部屋中を隈無く照らす白い光の蛍光灯よりも、 部屋の低い位置に置いたオレンジ色の光の白熱灯や 柔らかい間接照明が主流になってきていますね。 ゆらゆら揺れるキャンドルの炎もお忘れなく。

日本文化は光の生み出す陰影の中に美の本質がある。 西洋文明の利便性に圧倒されないがしろにされつつある 日本の生活の美を鋭いセンスで見い出した『陰翳礼讃』は、 日本建築や和風インテリアが再評価され人気になってる昨今 インテリアデザイナー達の必読図書の一つといえるでしょう。

煌々と頭上から照らすMホテルのロビーはNGで 間接照明のTホテルはまだまし、という感想や、 和室に調和するデザインの電燈や暖房器具探しに 苦心しているくだりなど今どきのインテリア本みたいですが、 文豪谷崎潤一郎先生による昭和10年のエッセイです。

日本美の本質の追求なんて言うと 近代文明批判のように思われるかもしれませんが、 都会っ子で耽美趣味の先生は便利で快適な文明生活を 昔の不便に戻す気なんかは全然ありません。 西洋と東洋の美の発展の仕方の違いを分かった上で、 無理なく心地よい、美しい、と感じる生活を探すべし。

漆器は暗い部屋で見てこそ美しいというくだりには はったと膝を打ってしまいました。 そうか、私は蒔絵がどうもけばけばしくて苦手で、 気に入った漆器がなかなかないな、と探し回っていたのですが、 いくら高価な漆器でもデパートの蛍光灯の下じゃ美しく感じないわけだ。 あれは闇の中で仄かな灯を受けて、闇に溶けた漆の地肌に金蒔絵が 時折ぴかりぴかりと光るところに美を見い出すのですね。 こんど実家の納戸の薄暗い中で蒔絵の塗り物を見てきます (で、気に入ったらふんだくってくる)。

日本の陰翳が培った、闇の中でこそ美しい建築、調度、食物に女人。 厚い闇の帳に覆われた平安の女性は、美しい衣服と 手や項の白さ以外は目に見えないから、中身は問われません。 個性はなくとも「女」という共通イメージ相手に充分恋はできる。 そんなもんか?と現代人は疑問に思うのですが、 日が違っても「月」という共通の美的イメージがあるのと 同じようなもの、といわれるとなんとなく納得。

もちろん現代人の谷崎先生には衣服の中身が重要なので、 明るい光に照らされて美しい西洋美人の体型を羨んでます。 和洋の混じり具合では昭和初期の都会とそれほどの差を感じない、 というよりは当時の雰囲気あるモダン生活を 目指しているとも言える今の私達の生活ですが、 80年の間には当時と較べてちょっと進化した部分もある。 たとえば、谷崎先生にノリカちゃんをお目にかけたかった(笑)。(ナルシア)


『陰翳礼讃』 著者:谷崎潤一郎 / 出版社:中公文庫

2001年09月19日(水) 『散りしかたみに』
2000年09月19日(火) 『薔薇のほお』

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