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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2002年06月10日(月) --

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『まぼろしの小さい犬』

☆犬を飼いたかったロンドンボーイ。

ロンドンに暮らす少年ベンは、5人兄弟のまんなかに生まれ、 上の2人にも下の2人にも属せない距離を感じていた。 5人も兄弟がいて、やさしい母親ときちんと働く父親が いたとしても、それでもベンにとって、足りないものが あったのだ。

ベンは何よりも強く願っていた。 『犬が欲しい。自分の犬が』 そして、期待を裏切られ、自分の世界に閉じこもってゆく。 『僕が欲しいのは犬だけなのに、それすらもいけないの?』 そこにあらわれたのは、幻の小さな犬。 だれにも、どんなに身近にいる人にも理解されない ベンの苦しみとともに歩く犬。 だれも悪い人なんかいないと、ベンにもわかっているけれど、 犬への思いがベンから離れることはない。

この珠玉の物語は、 時を超える子どもたちを描いたピアスの代表作 『トムは真夜中の庭で』のようなファンタジーではない。 どこにも作り事めいたものを感じさせないリアリズムに徹しながら、 ベン少年を『生き残らせる』ために、筆を尽くす。

すぐれた児童文学のなかには、ACからの回復を促すものがある。 それらは、幼少時の体験や記憶を言葉の力で呼び起こし、 そのときと同じ気持ちを追体験させる。 気づきと癒しが、いつのまにか読むものの胸深くへ、 入ってきている。

子どもにとって、愛情を受けるということは、 受けすぎて余ることなどないのだと思う。 どれだけ注いでも、杯はいっぱいにならないし、 まして子どもが扉を閉ざしてしまえば、 その子の内部の庭は、外からの栄養をもらえない。

ACは動物を非常にかわいがるといわれる。 人間との付き合いが下手なだけ、与えただけのものを 裏切らずに返してくれる動物によりどころを求める。 「わかってくれる」と思うのだ。

ベンの場合は、犬だった。 わがままだとわかっていても、あきらめることが できない欲求を持ちつづけるベン。 子どもは、なぜそんなにその欲求にこだわるのか、 理由など考えない。考えればわかるのかもしれないが、 それを知ることも恐いことのように思える。

私もそうだったのだ。 10代の一時期、何よりも強く願った時期があった。 『犬が欲しい。自分の犬が』 その時期に体験した思いの記憶がよみがえり、 古い感情と涙の再来に溺れる。 (マーズ)


『まぼろしの小さい犬』 著者:フィリパ・ピアス / 訳:猪熊葉子 / 出版社:岩波書店

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