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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2002年06月02日(日) --

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『一八八八 切り裂きジャック』

よってらっしゃい見てらっしゃい。 時は1888年、所はロンドン、 かの混沌と絢爛のヴィクトリア時代、 英国社会を恐怖と狂熱の一大劇場へと変え果てた その名も高き切り裂きジャックの登場だよう。

案内役はスコットランド・ヤード視察中の 日本の美貌の貴公子、社交的な光るの君こと鷹原惟光。 語り役はロンドン病院研修医、 西洋文化の厚みに心惑う内向的な柏木薫。 二人が踏み入る世界はイースト・エンドの最下層の貧民窟から 次期国王となる皇太子のパーティまで、 舞台を彩る役者はそれこそ多士済々。

後の新進作家、幼いヴァージニア・ウルフ、 堅実で親切な微生物学者、北里柴三郎、 闊達でさばけた皇太子エドワード、 醜怪な姿と繊細で従順な魂のエレファント・マン、 名外科医師会のホープ、トリーヴス医師、 売り出し中の小癪な文士バーナード・ショー、 零落れた天国の画家シメオン・ソロモン、 降霊術のカリスマ、マダム・ブラヴァッキー、 フィレンツェの麗しき解剖鑞人形。 切り裂きジャック通にはお馴染みの被害者の皆さんに 「ジャック」と結び付けられた人々も総出演。 実在の人物を絡み合わせて奇想天外な仮想世界を生み出す、 山田風太郎氏の開化物英国版といった手法。

あんまり盛り沢山だし留学生達にも時間はないしで それぞれのモチーフを掘り下げる暇がなくて印象は浅いけれど、 なんといってもお代が文庫で1000円ポッキリ、 一日ゆっくり遊べる世紀末博覧会だよう!

それにしても、明治の留学生としては最高の環境ながら 勉強にも仕事にも身を入れずにひたすら読書に耽溺する柏木君。 「本ばっかり読んでいないで勉強しなさいっ!」という うちの母上の怒りの声が耳に蘇ってはらはらします‥‥。 (ナルシア)


『一八八八 切り裂きジャック』 著者:服部まゆみ / 出版社:角川文庫

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