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夢の図書館新館

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-- 2002年03月06日(水) --

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『指輪物語』(その3)

☆指輪への道

長く曲がりくねった遥かな旅であった。 いえ、『指輪物語』の旅は遠くて苦難に満ちているけれども 主要な部分は一年足らずの話です。 長かったのは私の辿った道。

皆さんの現在の住居と同じ様に、 子供の頃、家の至る所には父が読み終わった本が 山と積み上げられていました。 ほとんどが文庫本だったので、まるで滅びた城の石垣が 崩れつつも在りし日の栄華を語るかのようでした。 たまに母がごっそりと移動させるまで本の垣はそこここに放置され、 片付け終った後も日々本は積まれ、また一度読み終わった本でも 後日父がまた引っぱり出して積み上げてしまうのでした。

その石積みの中に、三種類のタイトルを含む、 同じサブタイトルの付いた本が あちらにもこちらにも見かけられました。

『指輪物語』。 家中に散らばって、全部で何冊あるのか見当もつきません。 全部一続きの話なのでしょうか? なんて長い話なのだろう。 思いっきり埃の溜った一冊を手に取って覗いてみても、 会議があったり戦闘があったりするようですが、 初めて見るカタカナの名前ばかりが延々と続き、 まるで何が何だかわかりません。 こんなのが何十册(と思っていた)も続くのかなあ?

中学に入ってすぐ友達になった子が 欲しい本があるので本屋につきあって、と言いました。 土曜日の明るい日射しの下を歩きながら 何を買うの?と尋ねると『指輪物語』という答え。 びっくりしてしまいました。 それまでほとんど自分の買い物をした事のない私は、 中学一年生が自分のおこづかいで あんな長い長い小説を買うなんて、 なんて勇気があるんだろう、と感嘆したのです。 「ファンタジーの傑作と言われているんだって」 友人は目を輝かせながら話してくれました。

「旅の仲間」が最初のパートだって言ってたっけ。 二階に押しやられた本の壁から埃が更に厚くなった 見慣れた本を引っぱりだしてみましたが、 最初がみつからないのでやっぱり訳がわかりません。 実うを言うと当時私は家中のクイーンとカーを読むのに忙しくて、 妖精やお城の話には興味がなかったのです。

こうして何年ものあいだ、そこらに積んである埃だらけの石垣に たまに手を出しては、派手な合戦の部分や魔法の部分を 順不同に拾い読みしながらも、アウトドアの嫌いな横着者は 森や山をひたすら歩く地道な場面などはずっとすっとばしていて、 物語の全貌は知らずにおりました。

長い年月が経ちました。 外に出るのが嫌いな子供は、 否が応でも何度も引越しをさせられた挙げ句 意外な事に植物に親しむ大人になりました。

そしてついに長年の懸案であった古馴染みのお話を 順番に、最初から読む機会が巡ってきました。

丁寧に、丁寧に。そして驚いた事には、 昔退屈でたまらなくて読み飛ばしていた部分が、 ひとつひとつ身にしみ入るように感じられるのです。 年のせいか、経験の積み重ねによるものか、 以前はただの映像的な観念だった木の美しさ、 幽かな光の輝かしさ、僅かな水の清らかさ等が 今や直に触れる様に読み取れます。

そうか、指輪の仲間達はこれら全てを守るために 身を挺して闘っていたのか。 中つ世は過ぎ、旧い種族は地上から姿を消し去っても、 世界はまだ過去の美しさの名残りを留めている。 世の中も一巡して、一部先端テクノロジーは 自然環境に沿う事を目指すようになりました。 それはエルフの技に似ています。

積み上げられた指輪の本が長い年月をかけて 私に教えてくれた事、それは── 「本はきちんと整理しておきましょう」(笑) (ナルシア)


・『新版指輪物語』全7巻  
著者:J.R.R.トールキン / 訳:瀬田貞二・田中明子 / 出版社:評論社
・文庫『新版指輪物語』全9巻(旅の仲間・上1、上2、下1、下2)
著者:J.R.R.トールキン / 訳:瀬田貞二 ・田中明子 / 出版社:評論社

2001年03月06日(火) 『クリスマスに少女は還る』 その(2)

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