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夢の図書館新館

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-- 2001年03月06日(火) --

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『クリスマスに少女は還る』 その(2)

聖ウルスラ学園。

そこは一世紀の歴史を誇る、 知能においても性癖においても 「平凡でない」子供たちの集められる学校である。 (聖ウルスラ会はイタリアで起こり、 なんと日本にも学校がある) この学園があるニューヨーク州の静かな田舎町で クリスマスの直前、学園の生徒、10歳のサディーとグウェン、 二人の少女の誘拐から物語は始まる。 目撃者である病的に内気な天才少年、 かつてその学園に通っていた天才警官、女性法心理学者。 子供たちの日曜学校の教師で、刑務所で変身を遂げた神父も 過去と現在をつなぐ環のなかにいる。

警察小説でもあるが、このミステリは 聖ウルスラ学園の生徒たちの戦いでもある。 後半、この学園の影がうすくなるのは少々もったいない 気がする(もっと学園長を出してほしかったのだ)とはいえ、 これほど主人公たちに親近感を感じるミステリも めずらしいのではないだろうか。 人間は皆、どこか毀れている。 だからこそ、私たちは強い希望を持ち、ともに 犯人と、そして彼らの過去と戦うのだ。

シィアルの助言に従った私は、解説を先に読まなかったので 予断なしに読み進むことはできたが、 うっかりして、終盤、「地獄の刑事」を信じかけてしまい、 勝手に肩をすかされてしまった。

表の主人公は若きルージュ・ケンダル警察官。 なんとはなしに、境遇や性格やルックス(そっくりともいえる)が P・コーンウェルの『サザンクロス』の元ジャーナリスト警官、 アンディ・ブラジルに似ていて好きだ。 彼は子供のころ、双子の妹を連続少女誘拐犯人に殺され、 崩壊した家庭で、半身として深い傷を負いながら生きている。

顔の片側にホラー映画まっさおの傷がある法心理学者、 アリ・クレイも、彼女を追い慕うFBI捜査官アーニー・パイルも さらわれた少女の親たちも、皆強さと弱さの危ういバランスで 輝いている。 脇で物語をしっかり支える母性。 サディーの母、グウェンの母、ルージュの母、 親がわりの寮母。警察で男たちを支える名物秘書。 心やさしいマッシュルーム・レディ。 聖女ウルスラの恩恵なのか、母たちの名演には ただただ脱帽である。

そして、読む者をとりこにせずにはいない ホラーマニアの向こうみずな少女、サディー・グリーン。 愛さずにはいられない、その個性。 もっともっと書きたいけれど、彼女の魅力には本のなかで 予断なく出会ってほしい。 B級ホラー映画のファンなら、誰しも少女たちの会話に 思わず笑い出し、その光景が目に浮かぶことだろう。 ティム・バートンなど、ひっくり返って笑うだろう。

この稀有な物語を読み終えた読者は、 また引き返してページをたぐることになる ──自分だけの、「クリスマスの奇跡」を求めて。(マーズ)


『クリスマスに少女は還る』著者:キャロル・オコンネル / 出版社:創元推理文庫

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