「もしかしたら?」 そう思ったぼくは、いったん「開き」から手を出し、ズボンのお尻のところに手を突っ込んでみた。 案の定、そこにボタンがあった。 パンツを後ろ前にはいていたのだ。
そこで、慌てて個室に入り、パンツをはき直すことにした。 ところが、個室は狭く、しかも和式である。 その和式も段上にあるものではなく、床にへばりついたヤツである。 つまり、油断するとトイレの中に落ちてしまうわけだ。 まあ、落ちるといっても、水洗だから濡れる程度ですむのだが、それでも気持ちいいものではない。
ということで、慎重に事を済ますことにした。 まず、ズボンを脱いだ。 これはうまくいった。 次にパンツを脱ごうとした。 ところが、これがうまくいかない。 パンツが汗でびっしょりになって、肌にくっついているせいだ。 広い場所なら、そういう状態でもそれほど苦もなく脱ぐことが出来るだろう。 だが、そこは畳半畳の広さもない密室の中、しかもそのど真ん中にデンと便器が座っているのだ。 まさに悪戦苦闘である。 それでも、何とかパンツを剥がすことが出来た。
ところが、まだ試練は続く。 今度は脚にまとわりついてきた。 狭いから充分に腰を曲げることも出来ない。 そこで逆に脚を上げることにしたのだが、このところの運動不足で体が硬くなっていているため、かなりきつい。 しかし、それをしないとパンツは脱げない。
と、脚に力を入れた時だった。 「痛っ!!」 右のふくらはぎが攣ってしまったのだ。 さらにその痛みでバランスを崩し、変な格好で倒れてしまった。 幸い便器の中に落ちることはなく、その変な格好のまま何とかパンツをはきかえることが出来た。 しかし、攣ったあとはかなり痛く、次の寺に行ったときには足を引きずりながら歩いたのだった。
まったく散々な墓参りになってしまった。 この運動不足、何とかしなくては…。
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