(1) 今月の15日の日記にユリちゃんのことを紹介したが、聞くところによると、どうもユリちゃんは誰にでも「カラオケ行こ」と言うらしいのだ。
そういえば、この間イトキョンと歌の話をしていたら、どこからともなくユリちゃんが現れて、「ん? 今、カラオケの話してなかった?」と言う。 ぼくとイトキョンは、それを聞いて思わず顔を見合わせた。 するとユリちゃんは、例のごとく「ね、カラオケ行こ」と言った。 それを聞いてイトキョンは、「カラオケですか。いいですねえ」と言った。 「いつ行く?」 「いつ、と急に言われても…」 「早くしてね。時間がないんやけ」 そう言って、ユリちゃんは出て行った。
ぼくはイトキョンに、「あんた馬鹿やねえ、変な約束して。だいたい、ユリちゃんが何歌うか知っとると?」と言うと、「いや、知らんけど…。あの人やったらポップスかねえ?」と言う。 「あんた、何も知らんねえ。ユリちゃんは演歌オンリーなんよ。それもド演歌、延々30曲」 「うっ…」 「私たちが歌えんやん」 「いや、ちゃんと歌えるよ」 「でも、30曲も歌うんやろ」 「うん。だから時間が長くなるんよね」 「それに…、ド演歌やったら踊れんやん」 「いや、それは大丈夫。ユリちゃんはちゃんと踊るよ」 「えっ、ド演歌でどうやって踊ると?」 「独特の踊りがあるんよ」 「どんな踊り?」 「腕を複雑に動かしたり、よろけるようにステップを踏んだり、柱にしがみついたりするんよ」 「へー、見てみたいねえ」 「じゃあ、今度じっくり見ればいいやん」
(2) 何でユリちゃんがそこまでカラオケにこだわるのかというと、前にも書いたが、それはカラオケを習っているからである。 きっと、そのことが大きな自信になっているのだと思うが、今日、アルバイトのT子から、こういう話を聞いた。
昨年の夏に屋外で焼き肉パーティをやった時のこと。 T子がトイレに入った時、個室で誰かが大声を出して歌っていた。 トイレを出る時も、その歌は続いていた。 それからしばらくして、トイレの灯りが消えたので、じっと見ていると、出てきたのはユリちゃんだったという。
T子は言った。 「あの人、変ですねえ」 「別に変じゃない」 「でも、ずっとトイレの中で歌ってたんですよ」 「ユリちゃんは、それが普通なんよ」 「???」 若いT子には、まだユリちゃんの味はわからないか。
しかし、トイレで平気に歌を歌うというのは、よほどの自信を持ってないと出来ないことである。 ここはユリちゃんを褒めるより、そこまで自信を付けさせたカラオケの先生を褒めるべきだろう。 その先生の名は、天籟寺和子(芸名)という。 古くからこの日記を読んでいる人なら、ピンとくるかもしれないが、天籟寺和子とは、2001年2月1日の日記に出てくる『芸能人おカズ』のことである。
そこで意地悪なぼくは考える。 もしかしたらおカズがユリちゃんに、「本当に歌が上手くなりたければ、トイレでも歌えるようにならんとね」と教えているのかもしれない、と。 おカズなら、言いかねない。
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