一昨日の夜中のことだった。 日記が書き終わり居間に行ってみると、聞き飽きた歌が流れてきた。 「おまえ、またこれ見よるんか?」 「会社の人にDVD借りてきたんよ」 「去年、完全版も見たし、もういいやろうが」 「それが、何回見ても飽きんのよね」 「おれは、このドラマを見ているおまえのアホ面を見飽きたわい」 「そんなん言わんでいいやん」 「もういい、ごゆっくり見て下さい。私ゃもう寝ますんで」
聞き飽きた歌とは『マイメモリー』で、このドラマとは『冬のソナタ』である。 嫁ブーは、まだ韓流にはまっているのだ。 家には、『美しき日々』のDVDがあるし、ぼくがタイトルを知らないドラマのやつもある。 それに加えて、今回の『冬のソナタ』である。 そこにぼくのライブラリーなんて一つもない。 つまり、うちのテレビの周りには韓流が充満しているのだ。
嫁ブーはいつも何かにはまっている。 以前はSMAPものだった。 彼らの出ているドラマはすべて見ていた。 その後が、韓流。 一昨日のことがあって、「嫁ブーは、今年も韓流で終わりそう」と思っていたのだが、何とそれだけではなかった。 また新たなものにはまってしまっているのだ。
昨日、床屋から帰った後に街に出た。 給料後の恒例になっている銀行周りに行ったのだ。 その帰り、本屋に立ち寄った。 『20世紀少年』の新刊が出ていたので、それをレジに持って行くと、横で嫁ブーが何か買っている。 何を買っているのだろうと見てみると、コミックが何十冊もあるのだ。 「おまえ、何買いよるんか?」 「花より男子」 「何冊あるんか?」 「全部で39冊」 「えーっ、全巻か?」 「うん」 「ドラマで充分やろうが」 「ドラマは、ダイジェストに過ぎんもん。だいたい10回やそこらで、38巻分の内容を全部出来るわけないやん」 「そうか」 「買ったらいけんと?」 「いや、おまえのお金やけ、別に何に遣おうとかまわんけど。ただ条件がある」 「えっ、条件?」 「おう」 「何ね?」 「おまえが読んだら、次はおれが読むけ、絶対に人に貸したらいけんぞ」 「そんなことね。いいよ」 ということで、ぼくは39冊買うことを承認した。
しかしたまげた女である。 ぼくもコミックのまとめ買いをよくやるのだが、10冊が限度だ。 一度に39冊も買ったことなんかない。 第一、書棚はぼくの本でいっぱいなのに、いったいどこに置くつもりなのだろうか。 そこでぼくは、「おまえ、それどこに置くんか?」と聞いてみた。 「テレビのところ」 「あそこ、おまえのDVDでいっぱいやないか」 「ああ、あれね。あれはもう見たけ、クローゼットの中にでも入れておく」 「命よりも大切な韓流やないか」 「大切やないよ。こっちのほうが大切やもん」 そう言って、嫁ブーは嬉しそうな顔をして、39冊のコミックを抱えて帰ったのだった。
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