何ヶ月か前のことになるが、嫁ブーから面白いことを聞いた。 嫁ブーの会社に、ネット好きの人がいて、よくブログなどを見て回っているらしい。 その人が嫁ブーに、 「最近面白いブログを見つけたんですよ」と言った。 嫁ブーが「どんなの?」と聞いてみると、 「いろんなジャンルのことを書いているみたいなんだけど、けっこう笑えるんですよ。でね、その人、奥さんのことを『嫁ブー』と呼んでいるんですよ。このへんに住んでいる人みたいなんだけど」と言った。 『嫁ブー』、その言葉を聞いて、嫁ブーはドキッとしたらしい。 「嫁ブーが主役なん?」 「いや、嫁ブーは時々出てくる程度ですけどね」 「鬼嫁みたいなの?」 「いや、逆に嫁さんをバカにしているような感じなんです」
その日の夜にぼくはその話を聞き、さっそく『嫁ブー』検索をしてみた。 きっと他の人のブログだろうと思ったのだ。 ところが、『嫁ブー』でヒットするのはぼくのサイトだけしか出てこないではないか。 「おい、それ、おれのブログみたいぞ」 「えっ…」 嫁ブーは一瞬沈黙した。
「ねえ、しんちゃん、変なこと書いてないやろうね」 「書くわけないやん。おまえが足をくじいた時に病院に連れて行ったこととか、おまえがぎっくり腰になったとか、休みの日にはしょっちゅう寝とるということくらいしか書いてないぞ」 「病院に連れて行ったこと? まさか車いすに私を乗せて遊んだこととか書いたんやないやろうね?」 「もちろん書いた」 「えーっ、何でそんなことまで書くんね?」 「日記というのはありのままを書かんとの。でも安心しろ。翌日のことは書かんかったけ」 「えっ?」 「おまえ翌日には治っていたくせに、わざとらしく松葉杖ついて会社に行ったろうが」 「‥‥」
「うそやろ。困るやん」 「何で困るんか?」 「嫁ブーが私ということがバレたら、変な人と思われるやん」 「変な人やないか。ヒロミの友だちなんやけ」 「‥‥」 「でも、心配せんでいいぞ」 「何で?」 「もしバレたら、その人に『主人のサインもらってきてやろうか』と言ってやればいいやないか」 「ブログ書いとるぐらいで、サインを欲しがるわけないやん」 「そんなことはない。『主人は作詞や作曲して歌も歌いよるんよ』と言って、『本来なら有料やけど、今回は特別にタダにしてやる』と言えば、おまえの価値も上がるやろ?」 「あっ、そうか」
相変わらず、単純な女である。
|