【2】 うちの店は自動ドアから出入りするようになっている。 だが、売出しの開店前ともなると、けっこうお客さんが並ぶので、開いたり閉まったりする自動ドアに並ばせるのは危険である。 そこで、開店前には売場の手前にロープを張り、そこまでお客さんを入れ、開店まで待ってもらうことにしている。 ほとんどのお客さんは、そのロープの前で大人しく待ってくれている。 だが、中にはロープをくぐって店内に入る人もいる。 もちろん大人ではない。 そう、子供である。 子供にはそういう決まり事は通用しないのだ。 親がいるからだろうが、したい放題やってくれるのだ。 先に書いたように、ロープの下をくぐって店内に入る子もいれば、ロープを揺さぶって遊ぶ子もいる。 そういう子の親が何をしているのかと言えば、他のお客さんと話をしたり、チラシを目で追っていたりして、子供のやっていることにはほとんど無関心なのだ。 それでも、周りの目が気になるのか、時々「○ちゃん、やめなさい」と形だけの注意をしている。 しかし、子供は言うことを聞かない。
実は昨日、そのことでぼくは切れたのだった。 開店間際、ロープを外すために、ぼくはロープの張っているところに立っていた。 すると、子供がロープを揺さぶりだした。 最初は軽く揺さぶっていたが、だんだんエスカレートしてきた。 そのロープをとめていた簡易性の柱がグラグラしだしたのだ。 それまで知らん顔をしていた親は、それを見てようやく注意をした。 「○ちゃん、お店の人に叱られるからやめなさい」 子供はそれでも言うことを聞かない。 一度は離した手を再びロープにかけ揺さぶりだした。 そのせいで、ついにロープが外れたのだ。 「あーあ、○ちゃん。だから言ったでしょ。お店の人に叱られるよ!」
ぼくは別に子供を叱りたいとは思わない。 叱りたいのはその親のほうである。 口で言うだけで、ロープをつかんだままになっていたわが子の手を退けようとはしない。 ここでぼくの堪忍袋の緒が切れた。 「お店の人に叱られる?じゃあ、お言葉に甘えて叱ってあげましょう」ということで、子供に向かって大きな声で「こんなことをしたら他の人に迷惑がかかるやろ。手を離しなさい!」と言った。 子供はその声に一瞬ビクッとした。 しかし、ロープは握ったままだった。 そこでぼくは、「離しなさいと言いよるやろ!」と言って子供の手をつかみ、ロープから外した。
その間親は何をするでもなく、成り行きを見ているだけだった。 自分が叱られているような気がしたのか、わが子が叱られているのを見て忍びなかったのか、それともわが子を叱るぼくに怒りを覚えたのかは知らない。 そのあと親は、ぼくに対して謝るでもなく、文句を言うでもなかった。 何か言ってくれば、お店の人として叱ってやったのに残念である。
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