確か、ぼくが幼い頃は、まだ玉子は贅沢品だったような覚えがある。 そのせいかどうかは知らないが、茶碗一杯のご飯に玉子をかけてしまうと、その贅沢な風味が消えてしまい、もったいないような気がするのだ。 よく大盛りのご飯に玉子をかけて食べている人を見かけるが、ご飯に色が付いているだけで、味のほうは「玉子味がちょっとする」程度しかないように思える。 やはり玉子かけご飯は、玉子の中にご飯粒が浮かぶくらいでないと、本当のおいしさは出ないだろう。
さて、その玉子だが、最初はスーパーで売っているもので事足りていた。 ところが1ヶ月ほど前のこと。 母が知人からもらったという玉子を分けてもらったことがある。 それがおいしいのだ。 玉子をぼくほどは食べない嫁ブーも、この味には感動した様子だった。
「同じ玉子なのに、どこが違うのか?」 そんな疑問を抱いたぼくたち夫婦は、ある時母に尋ねてみた。 「これは貴黄卵という玉子で、栄養価が高いらしいよ」 「貴黄卵か。で、どこで売りよると?」 「買いに行くんね?」 「うん。おいしいもん」 「確か鞍手とか言いよったけどねえ」 「鞍手?」 「うん。そこで生産直売しよるらしいんよ」
「そうか、鞍手かあ…」 買いに行ってもいいと思っていたのだが、鞍手となると、ちょっと事情が変わってくる。 北九州市の隣で、近場は近場なのだが、ぼくは詳しく道を知らないのだ。 かつて鞍手にある長谷観音に行った時、道に迷ってしまって、何時間も山道を走っていたことがある。 その記憶が蘇る。
そこで、地図で場所を確認してから行くことにしようと思い、ネットでその『貴黄卵』というのを調べてみた。 そこには住所と電話番号が書かれていた。 が、肝心の地図がない。 こうなったら、直接地図で調べようと、Yahoo!の地図を見てみた。 しかし、Yahoo!の地図はゼンリンの住宅地図ではないのだ。 さすがに番地までは載っていなかった。
まあ、電話番号が書いてあるので、そこに電話すればわかるのだろうが、とにかく不慣れな土地であるがゆえに、「そこに○○美容室があるから、そこを右に曲がって…」などと説明されてもピンとこないのは目に見えている。 ぼくは半ば諦め気分で、「しかたない、今回は諦めるか」と嫁ブーに言った。 「ちょっと待って、鞍手やろ。確かうちの会社にゼンリンの地図があったよ」 「そうか」 「うん」 「じゃあ、コピー取ってきてくれ」 「いいよ」 ということで、翌日嫁ブーはゼンリンのコピーを持って帰ってきた。
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