ぼくがかつていた会社は、よく販売会議をやっていた。 毎週土曜日が主任会議、日曜日は部門会議、月曜日は課長会議、というふうに週に三度、定例の早朝会議をやっていた。 それとは別に、緊急会議というのがあった。 ちょっとでも売上げが落ち込んだりすると、責任者を招集し、付け焼き刃的な会議をするのだ。 それは営業時間後に行われた。 ぼくがその会社を辞めた年などは、ほとんど毎朝毎晩会議をやっていたものだ。
その毎朝毎晩の会議で何をやっていたのかというと、売れない原因の究明と、それに対する施策の検討だった。 まず、売れない部門の担当者が、現状を述べ、施策を発表する。 その後で、それについて意見交換するわけだ。 ぼくなんか、売れても売れなくても、あまり体制に影響のない部門にいたため、いつも蚊帳の外だった。 ただそこに座っているだけの会議も辛いものがあった。
会議では、現状を述べるところで、いつも時間を食っていた。 まず担当者に現状から施策までを言わせ、それから質疑をやればいいものを、現状を述べている途中に、トップがその言葉尻を取って何度も口を挟んでくる。 「おまえの売場は、いつもごみが落ちている。だから売れんのだ」とか「商品の上に埃がかぶっとるやろうが。そんなことで売れると思っとるんか!」などと、売上げの低迷とは直接関係ないようなことを言ってケチを付ける。 そのために、なかなか会議が進まないのだ。
さらに施策である。 それにも問題が有った。 だいたい施策があるくらいなら、最初からそれを実行していたはずである。 であれば、売上げが低迷するはずがない。 では、どうして低迷しているのか? 答は簡単である。 それは販売に対する施策がなかったからだ。
しかし、彼らは会議になるとちゃんと施策を立ててきていた。 内容は実にくだらないものだったが、彼らはそれをトップが朝礼などで語っていた言葉で修飾し、さらに「トップ様がおっしゃっていたように…」とトップを立て、最後に必ず「頑張ります」という言葉を付け加えるのだ。 そう、担当者は販売に対する施策ではなく、会議に対する施策を立ててきたわけである。 そんな単純なことに騙されるのだから、つくづくトップはバカである。 どうしてそれが、中身のないものだとわからなかったのだろうか。 現状の時の威勢のよさはどこかに行って、聞き心地のよい言葉と「頑張ります」に満足しているのだ。 最後は決まって、「よし、頑張ってくれよ」だった。
こういう会議こそ、時間の無駄である。 朝からこういった会議を行い、夜また似たような会議を行っている。 当然帰りは遅くなる。 帰れば帰ったで、また翌朝会議である。 そういうことの繰り返しで、社員が疲れないとでも思っていたのだろうか。 売れない原因は、施策なんかにあったのではない。 そういった時間の無駄遣いからくる、社員の疲れにあったのだ。 なぜトップは、そういうことに気づかなかったのだろうか。
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