頑張る40代!plus

2005年02月14日(月) 珍客2

夕方、暇だったので店内をブラブラしていると、カウンターの中でアルバイトの女の子が下を向いているのが見えた。
「またあいつは寝やがって。起こしてやろう」と思い、そこに行ってみると、別に寝ていたわけではなかった。
下を向いて何かやっていたのだ。
ちょうど机の影になっていたので、何をやっているのかはわからなかった。
そこで、背後から回り込んで見てみると、彼女はリボンを手に持って一生懸命ゆらゆらと揺らしている。
リボンの先は、彼女の足下にあった段ボール箱の中に続いていた。
「おまえ、何しよるんか?」
「あ、しんたさん。かわいいですよ」
「え、何かおるんか?」
「うん、箱の中見て」
箱の中を覗いてみると、何とそこには一匹のブタ猫が入っていた。
「どうしたんか、これ」
「迷い猫なんですよ。店内をウロウロしていたんで、捕まえて箱の中に入れたんです」

なるほど、箱に『迷い猫』と書いてある。
しかし、猫が迷うはずはない。
迷っていると思うのは、人間の浅はかな考えでしかないのだ。
猫は、ただ散歩していただけで、偶然店の中に入ってきただけの話である。
「よく捕まえたのう。逃げんかったか?」
「大人しいんですよ。人慣れしてるみたいだし。首輪してるから、きっと飼い猫ですよ。」
「しかし、そんな箱やったら、出れるやろう?」
「それが出ないんですよ。一度箱から身を乗り出したけど、出てきませんでした」

で、彼女が何をやっていたのかというと、リボンを猫じゃらしにして遊んでいたわけだ。
猫は手を伸ばして一応リボンに反応していたが、実際はリボンが目障りだったので、取り上げようとしていただけだろう。
それを見ているうちにぼくは、前々から猫にしてみたかったことがあったのを思い出した。

そこでバイトの子に、「ここは歯磨き粉はないかのう?」と聞いてみた。
「ああ、ありますよ。そこの引き出しの中」
引き出しを開けてみると、試供品と書いた歯磨き粉が入っていた。
ぼくはさっそくそれを取り出し、ふたを開けて猫の鼻の先に持っていった。
何かを鼻の先に持っていくと、鼻をヒクヒクさせながら近づけてくるのは、きっと猫の習性なのだろう。
案の定、この猫も習性通りに鼻を近づけてきた。
その瞬間、猫は嫌な顔をして目を閉じた。
一度歯磨き粉を鼻先から外し、もう一度鼻先に持っていくと、また同じように鼻をヒクヒクさせながら近づけてきた。
結果はやはり同じで、嫌な顔をして目を閉じた。
3度目は引っかからないだろうと試してみると、やはり猫は習性通りに鼻をヒクヒクさせて近づけ、嫌な顔をして目を閉じた。
バカである。

閉店後、バイトの子に、「おまえ、この猫どうするんか?持って帰るんか?」と聞いてみると、「持って帰るわけないじゃないですか」と言う。
「なら、逃がすんか?」
「いちおう逃がすけど、ちゃんと家に帰れますかねえ?」
「アホか。ここまで歩いてきたんやけ、ちゃんと歩いて帰れるわい」
「そうですかねえ…?」
「表から逃がすと、また入ってくるやろうけ、裏から逃がせよ」
ぼくがそう言うと、バイトの子は猫を箱の中から取り出した。
ところが、猫はそれが気に入らなかったのか、バイトの子にパンチを入れた。
「おまえ、猫から叩かれよるやないか」
「何で叩くんかねえ?」
「抱き方が悪いんやないんか」
それを聞いて彼女は、猫を抱き変えてみた。
ところが、猫はそれも気に入らなかったのか、再び彼女にパンチを入れた。
「おまえ、猫になめられとるんやないか」
「そんなことはない」
そう言って、彼女は猫を箱の中に戻そうとした。
「あ、ちょっと待て」
「えっ?」
「店に来た記念に写真撮っとくけ」
ぼくは、そう言って携帯電話を取り出し、シャッターを切った。



外に出すと、猫はすぐにどこかへ行ってしまった。
バイトの子は、まだ「大丈夫かねえ」と言って心配していた。
大丈夫に決まっとるわい。


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