ショートメールの送り主はヒロミだった。 どうして音信不通だった嫁さんの携帯番号がわかったのかというと、7月の参院選の時、嫁さんに「公○党をお願いします」と電話をかけてきた嫁さんの同級生がヒロミに教えたからだった。
嫁さんとヒロミは、かなり長い時間電話で話していた。 途中嫁さんがぼくに「代わろう」と言ってきたが、遠慮しておいた。 照れとかではなく、ぼくに代わると話が長くなるからだ。 嫁さんが電話を切った後、今度はぼくの携帯にショートメールが入った。 ヒロミだった。 メールアドレスを教えろと言ってきたのだ。 別に断る理由もなかったので、「ここだ」と書いてメールを送った。
それからだった。 毎日少ない時で2,3回、多い時は10回以上、メールが送ってくるようになったのだ。 それも写真入りで。 その写真というのは、ヒロミの身内の写真に落書きしたものだったり、ヒロミが今パートで働いている会社にいる人だったり、家に飾ってあるグッズだったりする。 あいかわらず、ヒロミは自分の世界で生きている。 例えば、ヒロミの会社に勤めている人なんて、ぼくはまったく知らないのだ。 それも特徴のある人ならともかく、普通のおばさんがボーリングしている写真とか、糖尿持ちが飲み会で歌っている写真なのだ。 また、家に飾ってあるグッズと言っても、送ってくるのは自分の気に入らない物の写真ばかりなのだ。 一度、変な壁掛けの写真を送ってきたのだが、写真の横には『済州島のお土産もらったけど、いらないから しんたさんに見せます!』と書いてあった。
とはいえ、ぼくも送られっぱなしではない。 ちゃんと、それ相応の写真を送っている。 汚れたコルゲンのカエル人形だとか、2年前の飴が入ったままの『なっちゃん』の容器だとか、食べかけの弁当だとかである。 一度、バッタの写真を送ったことがある。 その時、ヒロミは何を思ったか、『カマキリ君』というタイトルのメールを送ってきた。 メールを見ると、ぼくが送った写真に「カマキリ♪♪♪」などと落書きしている。 「ああ、こいつバッタをカマキリと勘違いしたんだ」と思ったぼくは、ひと言「バッタだ」と書いて送ってやった。 なぜかそれがヒロミに大ウケしたらしく、そのメールを笑いながら娘に見せたらしい。 もちろん娘は何のことかわからない。 「これのどこがおかしいと?」と聞いたらしい。 するとヒロミは、「これはねえ。ママとしんたさんにしかわからんギャグなんよ」と言ったという。
話は元に戻る。 台風18号の日、嫁さんはヒロミに電話をかけた。 その電話の中で、ここまで書いたような話が出てきたわけだ。 その日も嫁さんとヒロミは、結構長い時間話していた。 そこでぼくは、嫁さんが変な格好で電話しているところや、熱弁している嫁さんの表情を撮り、ヒロミに送っておいた。 あとから写真付きの返事が着たのは言うまでもない。
さて今日のこと。 ヒロミからまたメールが届いた。 そこには犬の写真が貼ってあり、『最近実家で飼った犬』と書いてあった。 そこでぼくは、風呂から上がったばかりの嫁さんを撮り、『最近うちで飼ったブタ』と書いて送った。 先ほど、その返事がきた。 そこには、「まだ真夏の格好やん」と書いてあった。
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