【グリーンピース】 何が嫌いと言って、『ピースご飯』ほど嫌いなものはない。 味は当然のこと、あの臭いもだめである。 ぼくが子供の頃、母はよく『ピースご飯』を作っていたのだが、もちろんぼくは食べなかった。 それを食べなかっただけではない。 その臭いのせいで食欲も失せ、『ピースご飯』が出た時には、何も食べなかった。 そのうち、食欲が失せるだけでなく、『ピースご飯』の臭いを嗅いだだけで、吐き気も催すようになった。
その後母は、ぼくの前ではピースご飯を作らなくなった。 が、ぼくが出張した時などには作っていたようで、ぼくが結婚する前に「今日、しんたがおらんけね、『ピースご飯』を作ったんよ。食べにお出で」と言って、嫁さんを呼んだことがあるらしい。 今でも、ぼくが飲み会に行っている時などには、二人で『ピースご飯』パーティをやっているようだ。 「どうして、しんたは『ピースご飯』が好かんとかねえ」 「そうですよ。こんなにおいしいのに」 きっと、食卓では、こういう会話がなされているはずだ。
『ピースご飯』が大嫌いだと書いたが、では、グリーンピース単体はどうなのかというと、やはり嫌いなのである。 チャーハンやオムライスには、決まってグリーンピースが混じっているが、そのたびにぼくは、それを一つ一つ拾って、灰皿の中に入れている。 皿の中に除けておけばよさそうなものだが、同じ皿の中にグリーンピースがあること自体許せないのだ。
どうしてそんなにグリーンピースが嫌いなのかはわからない。 かつては食べたことがあるのだから、決して食わず嫌いというわけでもない。 充分に吟味して、大っ嫌いになったのだ。
【ピーナッツ】 ぼくには、もう一つ嫌いなものがある。 それはピーナッツだ。 ピーナツを食べるのも嫌なら、ピーナッツ風味の食べ物も嫌である。 酒のつまみに、柿の種を小皿に盛って出されることがある。 が、もしその中にピーナッツが入っていたら、ぼくは手を付けない。
そういえば、小学校の頃、時々給食にピーナッツバターが出ていた。 クラスのほとんどは「お、今日はピーナッツバターやん」と言って喜んでパンに塗っていたが、ぼくは何も塗らずに食べていた。 「しんた、ピーナッツバター塗らんのか?」 「おう、こんなの塗って食えるか」 「じゃあ、くれ」 ぼくはいつもそれを人にあげていた。
ピーナツが嫌いなら、アーモンドやマカデミアンナッツなども嫌いなのかというと、そうではない。 特にアーモンドは大好きで、酒の席にアーモンドが出たら、一人で全部食べてしまい、ひんしゅくを買っている。 「‥‥お前なあ、ナッツ類だめやったんやなかったか」 「ピーナッツがだめなだけ。その他のナッツは大好きなんよ」
では、なぜピーナッツがだめなのか。 実は、ぼくは小学校に上がるまで、ピーナッツが大好きだった。 ある日のこと、親戚のおばちゃんが買ってきた落花生を一袋、一人で平らげてしまった。 ところが、それからしばらくたって、鼻血が出てきた。 鼻血が出るのはいつものことだったが、おばちゃんがそれを見て「ほーら、あんたが落花生を全部食べるけ、鼻血が出るんよ」と言った。 それを聞いて以来、ぼくはピーナッツがだめになったのだった。
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