頑張る40代!plus

2003年12月07日(日) 髪を洗う(中編)

それから社会に出るまで、髪を洗うのは2日に一度のペースを守った。
東京に出てから、バイトの関係で週に一度しか銭湯に行けないこともあったが、髪だけは洗うようにしていた。

社会に出てからも、しばらくはそのペースが続いた。
ところが、ある日、髪を洗うことが許されない事件がおきた。
その前日、飲み会があったために、風呂に入るのが朝になってしまった。
その日は頭を洗う日になっていたので、ぼくは時間を気にしながら慌てて頭を洗った。
それがあだになった。
髪を洗った分、時間が遅くなったため、駅に着いたのは、電車の発車時間ギリギリのところだった。
ぼくは急いで、駅前の歩道橋を駆け上り、そして駆け下りようとした。
が、勢い余って足がもつれてしまった。
このままでは倒れてしまう。
「何かつかむものはないか?」
と、そこに手すりが見えた。
そこで、とっさに手すりをつかもうとした。
ところが、バランスを崩してしまい、頭から手すりに突っ込んでしまった。
ちょっと前に頭を洗ったばかりだったので、まだ皮膚がふやけていたのだろう。
手すりで打ったところが、ばっさりと切れてしまった。
会社に着いてから病院に行ったのだが、そこで5針縫う羽目になった。
縫合した後、医者から「抜糸するまで頭は洗わないで下さい」と言われた。

その事件が起こったのは、残暑の厳しさが残る9月のことだった。
そのため、地獄を味わうことになる。
さすがにその日は風呂に入る気もしなかったが、翌日から、髪の毛に着いたままになっている血糊と汗のせいで、だんだん頭が痒くなっていった。
傷口が治るにつれ、患部も痒くなっていく。
かといって頭を洗うことは出来ない。
3日目で、すでにのたうち回っていた。
風呂に入ると痒みがひどくなるため、4日目は風呂に入らなかった。
5日目、ついにピークを迎えた。
もはやぼくには、痒みを我慢するだけの精神力は残ってなかった。
頭を洗ってしまったのだ。
とはいえ、さすがに患部を洗う勇気はなかった。
おかげで痒みは半減したものの、患部の痒みがクローズアップされることとなった。
6日目、抜糸前日である。
その日は風呂に入らなかった。
7日目、ついに抜糸である。
抜糸後、医者から「今日から思いっきり頭を洗ってもいいですよ」と言われた。
家に帰ってから、医者に言われたとおりに、思い切り頭を洗った。
これで患部付近に残っていた血糊もきれいさっぱりに落ち、痒みから解放された。

今からもう22年前の話であるが、いまだにその時の痒みのイメージが鮮明に残っているくらいだから、よっぽど痒かったのだろう。
それからぼくは、そのイメージと闘うがごとく、毎日頭を洗うようになった。


 < 過去  INDEX  未来 >


しろげしんた [MAIL] [HOMEPAGE]

My追加