最近またマンガを読み始めた。 主に読んでいるのは、数年前に揃えた手塚治虫ものである。 もちろん数年前に買った時も、これらのマンガは読んでいる。 ところが、久しぶりに読んだせいなのか、歳のせいなのかは知らないが、ほとんどの作品の内容を忘れてしまっているのだ。
そういえば、前に読んだ岡崎二郎のマンガに、こういう話が載っていた。 《ある日、銀河宇宙線の量が急激に増加し始め、高エネルギー粒子の雨が、大気や磁気のバリアーを貫き、大地に降り注いだ。 そのため、ほとんどの生物があっという間に絶滅した。
主人公は放射能の嵐を避けるため、たった一人でシェルターの中で暮らしている。 書庫には何千冊もの本がある。 その本で残りの人生を慰めていくはずだった。
ところが、空調のパッキンが腐食していたため、その書庫は放射能に汚染されてしまった。 もちろん、主人公は書庫に入ることが出来ない。
手元には一冊のSFの『ショートショート』という本があるだけだ。 数ヶ月間、主人公はパソコンのゲームをやって過ごした。 『ショートショート』は最後の楽しみとして読まずにおいた。 主人公はゲームにも飽き、だんだんやけになってきた。
ある日、主人公はついに爆発した。 部屋の中で暴れ出したのだ。 ところが、そのせいで床に落ちたウィスキーのボトルにつまずき、主人公は頭を打ってしまった。
主人公が気がつくと、事態はひどくなっていた。 数時間前のことを覚えていないのだ。 どうやら、脳の中の海馬を傷つけたらしい。 ここを傷つけると、昔の記憶には何の影響も与えないが、短期の記憶に関しては右から左に抜けていくという。
ところが、それが幸いした。 それから、主人公は毎日『ショートショート』を読むようになった。 主人公の頭は、うまい具合に『ショートショート』の三話目の話を読み終える頃に、最初のストーリーを完全に忘れているのだ。》
「毎日、新鮮なストーリーを読むことの出来る私は、大変幸せだ…」というオチで、このマンガは終わっている。 手塚マンガを数年ぶりに読んでいるぼくにも、そういう新鮮な感覚がある。 最近物忘れがひどくなったということもあるし、もしかしたら、知らない間に海馬を傷つけたのかもしれない。
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