何気なく鼻の下を触っていたら、一本の鼻毛が指に触れた。 「後で切ろう」と思い、鼻の中に押し入れおいた。 ところがすぐに下に降りて来た。 何度かこの作業を繰り返してみたが、埒が明かない。 その都度、鼻毛は反発するようにお目見えする。 そこでついに「今ここで切ってしまおう」と思いたった。 ところが、運悪く身近にハサミが見当たらない。
たかだか一本のことだから、切ることが出来ないのなら抜けばいいじゃかと思うだろう。 が、ぼくの場合「抜く」という行為が問題なのだ。 元々鼻の中の皮膚が強いほうではないぼくは、過去に鼻毛を抜いて炎症を起こたことが何度もある。 そのため、気になる鼻毛があっても、いつもその記憶が蘇り、抜くことを躊躇してしまうのだ。
とはいうものの、このしつこい鼻毛だけは退治しないと気が済まない。 そこで、恐怖心を振り払って抜くことにした。 幸い周りには誰もいない。 鼻からはみ出した鼻毛を指で摘み、一気に引き抜いた。 「!!!」 引き抜いた鼻毛を見て、ぼくは驚いてしまった。 どう見ても3センチはある。 しかも白毛。 こんなに長い鼻毛を見るのは、初めてのことだ。 「今日まで、この鼻毛はどこをどう這い回っていたのだろう」 自ずとそういう疑問が沸いてきた。 何せぼくは、毎朝鼻毛をチェックしているのだから。
なぜ、ぼくがそれほどまでして鼻毛を気にしているのかといえば、鼻毛でその人のイメージがガラッと変ることもあるからだ。 高校時代、他のクラスに美人と噂されている人がいた。 その噂を聞いて、ぼくもそのクラスに見に行ったことがある。 確かに顔立ちがよく、美人と噂されるのも頷けた。 ある日のこと。 廊下でその子とすれ違ったことがある。 その時、ぼくはその子の鼻から一本の鼻毛が出ているのに気がついた。 その人がきれいだっただけに、ぼくはかなりのショックを受けてしまった。 それ以来、ぼくはその子をきれいだとは思わなくなった。 そういう経緯があるため、ぼくは鼻毛を気にするのだ。
しかし、この鼻毛はどこをどう這い回っていたのだろう。 最近よくくしゃみが出るが、案外この鼻毛が原因だったのかもしれない。 ということは、鼻のかなり上の方に潜り込んで、粘膜を刺激していたわけか。
「さて、この鼻毛をどうしようか」 「こういう記念物のような鼻毛にお目にかかるのは、今回が最初で最後かもしれん」 「保存しておこうかなあ」 そんなことを考えている時、電話がかかった。 受話器を取った瞬間だった。 指で摘んでいた鼻毛は、床に落ちてしまった。 電話が終わった後で探してみたが、何せ床と同系色の白毛である。どこに行ったのかわからない。 しばらく探していたが、ふと「何と馬鹿らしいことをやっているんだろう」と思い、やめることにした。
2003年11月10日、今日は妙に鼻毛が気になる一日だった。
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