久しぶりに晩酌をした。 夕方、コンビニにタバコを買いに行ったのだが、そこでお気に入りの日本酒『西の関』の純米酒を見つけた。 さっそく、レジで支払った。
ぼくと『西の関』の付き合いは、それほど長くはない。 30歳の頃に人に勧められて飲んだのが最初だから、まだ15年くらいしか経ってない。 それまでは、あまりブランドにはこだわらずに、『月桂冠』『大関』『白雪』といった一般的なものを飲んでいた。 酒といえば「とにかく酔えればいい」という考えを持っていたので、味などにはいっさいこだわってなかった。
ところが、知り合いから紹介された『西の関』を飲んでから、その考えは一蹴された。 折しもその頃にブームになっていた『夏子の酒』の影響もあって、ぼくの日本酒へのこだわりが始まる。 日本酒の専門店に飲みに行ったり、蔵元に行ったりして、本物の味を探し回った。
そういう中で、いくつかのおいしい酒に巡り会った。 これらは一般に売っているものと違うプレミア付きのもので、例えば『越乃寒梅』は一杯3千円もした。 また、その中で印象に残った酒は、静岡の『磯自慢』である。 実にフルーティで、日本酒というより、ジュースに近いものがあった。 「これ、まるでジュースやん」とぼくが言うと、店主は「そうでしょ。寒梅とはまた違ったものがありますよね。ああ、そういえば、その『磯自慢』の中でも幻の名酒と呼ばれている酒がありますよ」と言った。 「幻の名酒? すごいねぇ。ぜひ飲んでみたい」 「実は、最近手に入ったんですよ」 「へえ、ぜひ飲んでみたい」 「でね、その名前なんですけど」 「うん」 「嘘みたいな話なんですが」 「うん」 「『江戸紫』っていうんですよ」 「えっ!?」 「洒落で付けたとしか思えませんよね」 ということで、ぼくは一杯千円する、その磯自慢の江戸紫を飲んでみた。 最初に飲んだ『磯自慢』よりも、さらにフルーティだった。
さて、ぼくの美味しい酒探しは、その後も続いた。 が、そうそう美味しい酒には巡り会えない。 さらに金が続かない。 そういう時だった。 ぼくの美味しい酒探しのきっかけとなった酒『西の関』を改めて飲む機会があった。 冬季限定の純米酒だった。 おいしい。 それまでに飲んだどの酒よりも、ぼくの口に合っている。 しかも、蔵元に買いに行く必要もなく、直送体制をとってくれている。 さっそく、酒造元である大分国東半島の萱島酒造に電話し、1ダースほど注文した。
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