送ればせながら、『歌のおにいさん』の中にあるMIDI集の説明をします。
『歌のおにいさん』にある曲は、説明文にあるとおり、すべてオリジナル曲である。 オリジナル曲をただ単に歌うだけなら別に苦労はないのだが、MIDIにするというのは、ぼくにとっては大変な作業だった。 まず第一に、ぼくは楽譜が読み書き出来ない。 これは致命傷である。 楽譜の勉強をやったことはある。 しかし、自分が歌うだけのものだから、別に楽譜にしなくてもいいや、と最後にはあきらめた。 そのために、今頃になって苦労している。 ギターの音を一つ一つ拾いながら、パソコンに打ち込んでいったのだが、かなりの時間を要した。 現在5曲を収録しているが、5曲目を作り終えた時、「もうこんな面倒なことはせんわい」と思ったものだった。 もしぼくが楽譜を書けたとしたら、さほど時間をかけなくてすんだだろうし、もっと多くの曲をMIDI集に収録できたと思う。 それを考えると残念である。
『愛の夢』 もちろん、リストの『愛の夢』ではない。 「ぬれた瞳に 笑顔を込めて 君がぼくの瞳を 見つめた時 小さな風は 息を潜めて 二人だけの世界に 愛を送る…」 という臭い歌詞を付けている。 一度この歌を人の結婚式で歌ったことがあるのだが、歌詞があまりに恥ずかしかったので、ずっと下を向いて歌っていた。 この曲は当初『ダウトの夢』と名付けていた。 東京にいた頃に、オーケストラの夢を見たことがある。 その時奏でていたのがこの曲だった。 夢の中で、そこにいた人にぼくが「この曲何というんですか?」と尋ねると、その人は「ああ、これは『ダウトの夢』というんだよ」と答えた。 ということで、この曲は夢の盗作である。
『雨の降る夜は』 1976年6月に作った。 「雨の降る夜は たった一人で 蚊取り線香の 光を見つめて 蛙といっしょに 歌をうたうと 見知らぬ人が 傘をさして通り過ぎる」 という歌詞が付いている。 ちょうどギターでボサノバの練習をしていた時だった。 バレーばかりやっていて手が疲れたので、簡単なコードで遊んでいた時に曲が出来た。 それに歌詞を付けたのだが、歌詞はイマイチである。
『湖上』 予備校時代、中原中也にはまっていた時期がある。 その中に『湖上』という、いかにも歌詞歌詞した詩があった。 「ポッカリ月が出ましたら、 舟を浮かべて出掛けませう。 波はヒタヒタ打つでせう、 風も少しはあるでせう。…」 この詩に出会った時、「いつか曲を付けてみたい」と思ったのもだった。 曲が出来たのは、それから1年後だった。 1977年の5月だったと思う。 ぼくの人生の中で唯一の引きこもり時期の真っ最中だった。 することがないのでギターを弾いていたら、急に曲想が浮かんだ。 冒頭に書いたとおり、ぼくは楽譜の読み書きが出来ないので、さっそくカセットテープに吹き込んだ。 今もそのテープは手元にあるが、ギターを奏でながら「ポーッカリつーきーがでーまーしーたーらー」と実に間抜けな声でうたっている。 ここでお聴かせできないのが残念である。
『夏の夜』 これも‘77年の引きこもり時期に作った曲である。 7月だった。 テレビを見ている時に、メロディが浮かんだ。 いつものようにテープに吹き込もうとしたのだが、なぜかその時に限って録音が出来なかった。 ぼくは一度聴いてもメロディを覚えることが出来ない質なので、覚えるまで何回もギターを手にして鼻歌をうたっていた。 曲が出来たあとに詩を付けたのだが、詩は5分で出来た。 「波に乗る風、涼やかに ああ写し出す月影 夢のような時は過ぎ 短すぎる、夏の夜…」 詩の形態に抒情小曲というものがあるが、この詩はそういうものの影響を受けていた時期でもある。
『ブルー』 この曲もほぼ同時期に作っている。 後に曲作りの役に立てばいいと思い、素材として録音しておいた。 が、日の目を見なかった曲である。 こういう曲はたくさんある。 いつかはMIDI集の一員にしてあげようとは思っているのだが、もはやその気力は残っていない。
さて、MIDIを作る際、一番困るのがアレンジである。 ぼくはいつもギター一本でやっているため、バンド風やオーケストラ風のアレンジが出来ない。 イメージは沸くのだが、楽譜が書けないため、結局イメージのままで終わっている。 ぼく一人だけが、イメージに浸っているわけである。 しかし、メロディだけでは何なので、ギターのアルペジオなどを入れてみた。 「素朴な感じがする」とよく言われるのも、そのせいだろう。
ということで、今日の日記は興味のない人にとっては、どうでもいい話を書きました。
|