1週間前から、午前9時に会社に行き午後5時に帰るという、堅気の生活をしている。 社会に出てから二十数年、こんな経験は初めてだ。 前の会社にいる時は、午前9時出社、午後9時退社という12時間労働が基本だった。 どうかすると週に一度は午前7時出社、午後11時退社ということもあった。 今の会社でも、普段は午前9時半出社、午後8時退社である。 午後5時に帰るということがなかったので、出社してすぐに退社するような錯覚に陥る。
さて、午前9時から午後5時までぼくは何をやっているのかといえば、商品を移動したり、什器を壊したりしているのだ。 この単純かつ危険な作業が時間を忘れさせる。 朝、瓦礫の山のようになっている売場に行く。 そこでゴソゴソやっている。 気がつくと12時である。 食事を済ませ、1時から再び単純かつ危険な作業に入る。 気がつくと、もう5時だ。 そこで作業は打ち切りである。 趣味に没頭している時はともかく、仕事でこういう経験をするのは初めてである。 おそらく、普段とはまったく違った仕事をしているために、時間の感覚がわからなくなっているのだろう。
ところで、作業場には時計がない。 痒くなるという理由から、ぼくは腕時計をしてない。 また、営業時に時計代わりにしているテレビもない。 そういう中で、ぼくはどうして時間を知るのか。 それは電気である。 今回の改装は、外部から電気の供給を受けてない。 自家発電機を使って電気を起こしているのだが、この発電機がくせ者で、約200リットルの軽油を2,3日で消費してしまう。 金額にして1万4,5千円になるらしい。 そこで、節約の意味もあって、昼食時に一度、すべての電気を落とすことになっている。 もちろん仕事が終了する5時にも同じことが行われる。 そう、ぼくは店内が真っ暗になって、初めて12時や5時を知るのだ。 あの力石徹が、減量中にゴングしか聞こえなかったのと同じ状態である。
作業を一人でやっているため、ぼくはいつも歌を歌っている。 今日はどういうわけか、ヒデとロザンナの『愛の奇跡』を歌っていた。 「別れても私は信じたい/いつの日かあなたに愛される愛の奇跡〜♪」 どうしてこの歌が出てきたのかわからない。 聞いたことはあっても、歌ったことは一度もないのだから。 そのあと、『ひょっこりひょうたん島』なんかも歌っていた。 「苦しいこともあるだろさ 悲しいこともあるだろさ だけど僕らはくじけない 泣くのはいやだ笑っちゃお すすめ ひょっこりひょうたん島 ひょっこりひょうたん島 ひょっこりひょうたん島♪」 いい詩である。 口ずさんでいるだけで、力が沸いてくる。 小学1年の頃から知っている歌ではあるが、今までこんなにいい詩だとは気づかなかった。 そうだ! この歌を、今回の改装作業のテーマソングにしよう。 作業に疲れた時、作業をやりたくない時、ぼくはいつもこの歌を歌っていることにしよう。
それにしても、こんな生活に慣れてしまうと、オープンしてからが大変である。 今はお客がいないから神経を使わずにすんでいるが、オープン後は否応なしに神経を使わなくてはならない。 時間も長くなるし、今とは違った疲れがたまるだろう。 まあ、そういう時も「泣くのはいやだ笑っちゃお」で乗り切るか。
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